社会全体で取り組むべき課題
「やせたい子ども」という現象は、SNSにあふれる理想化された画像、家庭に根付く価値観、そして社会がつくり出す「細いことが美しい」という規範の総体から生まれている。子どもの心身を守るためには、以下のような取り組みが不可欠だ。
• 家庭:体型を否定する言葉を避け、「健康を支える行動」に目を向ける声かけを。
• 学校:栄養・運動を中心とした健康教育(ヘルスリテラシー)に加え、SNSリテラシー教育を授業に組み込み、現実との違いを考える力を育む。さらに、同調圧力に流されず、多様な体型や見た目を尊重する態度を育む。
• 社会:行政・メディア・企業が連携し、「多様な美の基準」を積極的に発信する。
こうした健康リスクを包括的に示す概念として「FUS(ファス:Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群)」が提唱された。これは医学的な枠を超え、社会全体が価値観を問い直す契機とすべきだろう。
おわりに~個人ではなく社会の責任として~
「やせたい子ども」という現象は、子ども自身ではなく社会がつくりだしているのではないだろうか。SNS、家庭、文化、規範が絡み合い、子どもたちを「細くなければならない」という呪縛に追い込んでいる。
しかし、介入教育の成果が示すように、意識は変えることができる。その経験は、社会全体の変化への小さな希望の芽ともいえる。必要なのは、家庭・学校・地域・社会のすべてが一体となり、「やせたい」ではなく「健康でありたい」と願える社会をつくることであり、将来を担う子どもたちのために、この問題を「個人の悩み」としてではなく「社会的課題」として捉え直すことが求められている。
もし社会全体が価値観を見直し、多様なあり方を認め合える文化を育むことができれば、子どもたちは「やせなければならない」という同調圧力から解放され、「自分らしく生きていける」未来を手にできるだろう。
参考文献
1). 厚生労働省(2024).令和5年国民健康・栄養調査.
2). NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC). (2024).Worldwide trends in underweight and obesity from 1990 to 2022: a pooled analysis of 3663 population-representative studies with 222 million children, adolescents, and adults. The Lancet. 403:1027–50.
3). Sato M,et al. (2021).Prevalence and features of impaired glucose tolerance in young underweight Japanese women. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 106(5), e2053–e2062.
4). Brown Z, Tiggemann M. (2016) Attractive celebrity and peer images on Instagram: Effect on women's mood and body image.Body Image.19:37-43.
5). Fardouly J, Diedrichsb PC, Vartaniana LR, Halliwell E.(2015). Social comparisons on social media: The impact of Facebook on young women’s body image concerns and mood.Body Image.13:38-45.
6). マイウェルボディ協議会.
7). 日本肥満学会(2025).閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題‐新たな症候群の確立について‐
<執筆者略歴>
吉澤 裕世(よしざわ・やすよ)
順天堂大学 国際教養学部 グローバルヘルスサービス領域 准教授
博士(スポーツ医学)、看護師、保健師、養護教諭
専門は地域看護学、公衆衛生看護学、老年医学、身体活動。ヘルスリテラシー、ウェルビーイング等について研究
筑波大学医療技術短期大学部看護学科、明星大学人文学部心理教育学科、筑波大学大学院人間総合科学研究科卒
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。