「やせ」が未来に及ぼすリスク

「やせている方がかわいい」「細いほどスタイルがいい」という価値観をもつ若年女性は少なくない。しかし、過度なやせには外見からはわかりにくい多くの健康リスクが潜んでいる。

月経は思春期女子にとって、体の成長と健康状態を示す大切なバロメーターであるが、過度なやせや食事制限により、ホルモン分泌が抑制されて排卵が止まり、月経が不規則になる「機能性視床下部性無月経」が起こることがある。

また、思春期は骨の成長と強化が最も著しい時期であり、この時期に十分な栄養が得られないと最大骨量(ピークボーンマス)の形成が不十分となり、将来の骨粗鬆症リスクが高まる。20歳時点と中年期の両方でやせている女性は、中年以降に骨減少症となるリスクが約4倍に上るという報告もされている。

さらに、「やせていれば糖尿病にはならない」と思われがちだが、やせていても糖尿病を発症することはある。実際、やせた若年女性に耐糖能異常が見られ、その割合は正常体重の女性に比べて約7倍と言われている。

こうしたリスクを体系的に整理するため、日本肥満学会は「FUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群)」という概念を提唱した。FUSは「低体重または低栄養の状態を背景として、それを原因とした疾患・症状・徴候を合併している状態」と定義される。

18歳以上の閉経前女性を対象とすると、BMI18.5未満や低筋肉量、鉄欠乏性貧血、ビタミンやミネラル不足、月経異常、骨密度の低下に加え、倦怠感や冷え性などの身体症状、さらには抑うつ、不安、睡眠障害といった精神的影響も無視できない。すなわち、心身両面の健康に影響する課題として捉える必要があるだろう。

教育は希望をもたらすか

教育現場からはこの課題に対した取組の結果から希望も見えてきた。私たちが高校生に実施したボディイメージ教育では、「美の基準は時代や文化によって変わる」ことを考えるワークを取り入れた。

授業前後の測定ではポジティブ・ボディイメージ尺度が有意に上昇し、「自分のことを大切にしている」、「自分のからだのことをよいと感じている」、「自分のからだが何を欲しいのか気にしている」などの項目に変化が見られた。

小学生への授業でも、「自分だけにしかないことがあるということに気づいた」、「将来、自分の体型を気にすることがあっても、ありのままの自分を大切にしたい」、「人はみんな違うから痩せなくても自分自身の魅力が絶対にあるから、自分らしく生きていたら良いと思う」といった変化が確認されている。

同年代同士の対話はピア・サポートとなり、安心感を生む。教育には、子どもの意識を変える力が確かにある。

しかし同時に、これは学校だけに責任を押し付ける話ではない。教育は一つの突破口にすぎず、家庭、地域、社会全体が「やせ志向」を是正する空気をともに育む必要があるだろう。