受刑者の新たな更生への取り組み“保護犬プログラム”

雑種のパクスは推定1歳6か月の雄です。殺処分される前に保護され、シェルターに来ました。

ピースワンコ・ジャパン 尾島李雅龍 飼育員
「今は緊張して怖がっている。本当は天真爛漫で、実はすごい人も大好き。一緒にボールで遊んだりとか、人と一緒に何かをするのが大好きな子です」

そんなパクスが車のトランクに乗せられ、向かったのは…なんと「尾道刑務支所」

刑務官
「ただいまから“保護犬プログラム”を開始します」

無免許運転などの道路交通法違反罪や窃盗罪などの罪を犯した、初犯の受刑者が多く収監される刑務所です。

この刑務所では、2024年12月から犬の保護や里親探しに取り組む団体と提携して、受刑者が「保護犬」を訓練するプログラムを行っています。全国でも珍しい取り組みです。

ピースワンコ・ジャパン 尾島李雅龍 飼育員
「同じ人ばっかりお世話していると、その人だけに依存してしまって、いざ新しい家族を見つけてお世話をしても、なかなかうまく信頼関係を築けない。

小さいうちからいろんなところに行って、いろんな人に触れ合ってもらうのは、ワンちゃんにとっても大事です」

受刑者たちは団体のトレーナーから指導を受け、犬と接していきます。
目標は、トレーナーがいない環境でも受刑者だけでハーネスを付け、一緒に散歩できること。

人に飼われた経験がある「保護犬」は順調に訓練をこなしていきますが、元野犬で人に慣れていないパクスは、キャリーケースから出てきません。

受刑者
「おやつをいただいても…」

大好物のおやつを目にしても、出てこようとしないパクス。キャリーケースの上部を取り外すしかありませんでした。

散歩訓練では、受刑者がリードを引きますが、全く動きません。

パクスの不安を感じ取り、寄り添うのが30代の受刑者です。「自分を変えたい」との思いで、このプログラムに臨んでいます。

受刑者は「不安や孤独を感じながら生きてきた」と言います。

受刑者
「誰にも大事にされんかったから、誰も大事にできん人間になって、そのまま刑務所に入ったっていう感じですね。

関わる人に、人間ってよるんだろうなって思います。犬もそこは一緒なんだろうと、あの子たちを見てると思いますね」

両親から愛情を受けずに育ったという受刑者。パクスの境遇に自分を重ね合わせ、心を通わせようとしますが…

受刑者
「(パクスと)接していると、目もあいませんし、呼びかけても反応もしてくれない」

プログラムが始まって日が浅いためか、パクスは心を開きません。

このプログラムは、保護犬とのふれあいによって、受刑者の更生につなげる狙いもあると担当刑務官は語ります。

尾道刑務支所 津村刑務官
「一番傷ついているのは事件の被害者ですが、傷つき体験を持った受刑者も多くいますので、傷つけられた保護犬に関わる中で、生命の尊重や他者に優しくできるという気持ち、役に立っているという自己肯定感。

そういったものを感じてもらうことで、受刑者の改善更生とか社会復帰に向けての強い動機付けにつながっていくんじゃないか」