突然「一人っ子」になったら――

深迫さんが思い浮かべるのは、忍さんと2歳違いの娘のことです。以前、こんなことを話したといいます。

「お兄ちゃんみたいに、きょうだいが突然消えることって本当にあるんだよね」

事故が起きた日から、突然「一人っ子」となってしまった娘。

会社などで「きょうだいの数」を聞かれた時、本当のことを言わずに「一人っ子です」と答えるのが辛いと、打ち明けたのです。

講演会は、娘の言葉で締めくくられました。

「一度しかない人生、悔いのないように生きていこうと思う。これはお兄ちゃんが教えてくれたこと」

「もし家族が被害者や加害者になったら、どっちも本当に悲しいことだと思う。被害者支援をやる前に『犯罪をなくす』。これが私たちの目標かもしれないね――」

講演を聴いた先生や生徒たちは、12月に深迫さん達が開催するイベントにボランティアとして参加する予定です。そのきっかけはシンプルです。

「コーヒーが好きだから」

明るく楽しく、おいしくて誰かのためになる。そんな「一石二鳥のコーヒー」を高校生たちが販売します。

忍さんから深迫さんへ、そして若い世代へ。

思いのバトンが、また一つ、つながれていきます。