愛国主義という「プラスの財産」と「マイナスの財産」

中国は「愛国主義」を強調するために、今後も歴史問題を言い続けるのでしょうか? 私は、そこに中国の弱点があるように感じます。

習近平政権が最も重視するのは「国家の安全」、つまり共産党の支配体制を脅かす要素を徹底的に排除することです。そのためには、国民を統治する共産党の正統性が揺らいではいけません。

しかし、9月17日に発表された8月の雇用統計によると、16~24歳の失業率は18.9%と、若者の5人に1人に職がない状況です。このような数字一つをとっても、一党独裁の共産党の正統性が揺らぎ、「国家の安全」への不安要素にもなりかねません。

国内に難問が山積し、日本との関係を改善したい。しかし、「共産党の正統性」のためには、歴史問題において日本を利用し続けなければならない。中国は、このようなジレンマの渦中にあるのではないでしょうか。

9月18日の帰宅中のできごと

では、当の中国人たちは「反日」感情を抱いているのでしょうか? 一部を除いて、現実は反対ではないかと感じます。

先日、私は職場からバスで帰宅する途中、中国人家族と乗り合わせました。整理券の使い方がわからず困っていたので教えてあげると、バスの中で会話が弾みました。彼らは浙江省から九州観光に来たそうで、福岡市東区の水族館、マリンワールド海の中道からの帰りだったようです。後で気づいたのですが、その日は9月18日。柳条湖事件が起きた、中国人にとって「国辱の日」でした。

2025年8月に日本を訪れた外国人旅行者は343万人で、そのうち中国人は102万人と、インバウンドの3割を占めています。バスで出会った家族連れのように、「日本が嫌いですか?」「嫌いな日本に遊びに来るのですか?」と問えば、答えは自ずと分かるはずです。

「愛国主義」は、中国共産党にとって、プラスの財産であると同時に、マイナスの財産でもあるのではないでしょうか。中国共産党こそがジレンマの渦の中にあるのです。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める