温暖化による生命の危険と生態系の変化

――温暖化は私たちにどれだけ深刻な影響を及ぼすのでしょうか。

森田 生命への深刻な影響でいうと、熱中症が挙げられます。ただ、熱中症以外にも、熱関連死と呼ばれる暑さに関係して引き起こされる死や、事故も増えているようです。

――地球全体では、どのような影響が考えられますか。

森田 一切食料が育たなかったシベリアで小麦がとれるようになるなど、温暖化によって得になることもあります。冬が暖かくなるのでいいじゃないかという考えももちろんあるでしょう。けれども、温暖化の「損得」の研究も進んでいて、現在では温暖化は地球全体で損になると考えられています。

――温暖化で良くないのはどんなことでしょうか。

森田 南にあるものは北に、北にあるものはどんどん追いやられて、とれなくなるものが出てくることです。今年は東北で伊勢エビがとれたことが話題になりました。バナナは今まで北緯28度まででしか生育できないとされていたのが、29度、30度へと生育地が北へ上がっています。ミカンやリンゴの生産地も北に移動しています。

その一方、それまで育っていた地域でミカンやリンゴは滅びてしまいます。稲は北海道で作付面積が広がりましたが、西日本では高温による熱障害が起きていますよね。さらに、人間が管理できるものはまだいいけれども、実は人間が管理できずに滅んでいくものがたくさんあります。

――例えばどのようなものですか。

森田 木などの植物です。植物は最も適した温度帯で生育範囲を広げていきます。平均気温20度のところで育っていた木は25度になると滅ぶので、北上が始まります。けれども、温暖化のスピードがゆっくりであれば移動できますが、急に温度が上がると植物は対応できません。

さらに、地球上には500万から3000万種類の生物がいると言われていますが、そのほとんどは微生物です。微生物は植物に依存していて、植物が枯れると滅び、その微生物に依存している昆虫も滅びます。昆虫が滅ぶと鳥も食べるものがなくなります。人間は食物連鎖の最上位にいるので気付かないけれど、ある日いろいろなものがなくなるかもしれないのに、大丈夫だといってチキンレースをしているのが今の状況ではないでしょうか。

――植物や昆虫は、日本でも減っているのでしょうか。

森田 僕は日本生態系協会の理事をしていて、確実に減っていると報告を受けています。虫も減っていて、都会で蚊に刺されることはなくなりました。もちろん、都市は便利だし、蚊がいないことはありがたいので、ある程度はしようがないと思っています。ただ、都会とその周辺でバランスをとって、虫が生息できるところをとっておきたいですよね。

――都会で小さな緑地を作ることにも意味があるのでしょうか。

森田 赤坂のTBSの敷地には、小さなビオトープ(注)があります。あんな小さな場所に意味があるのかと思う人もいるかもしれませんが、あそこにはタマムシが皇居から飛んできます。死骸を何度か見つけたことがありますよ。小さな空間でも1平方キロメートルの中にいくつか作ると中継地になって、虫にとってはありがたいわけです。

もっと言うと、明治神宮は人口の林です。明治天皇が亡くなったとき、あの場所は湿地帯でした。そこに伊勢神宮のような立派な神社を作ろうとして、スギやヒノキを植える案があったのです。しかし植物学者の本多静六が、近くを蒸気機関車も走っているのでスギやヒノキでは駄目になってしまうと反対して、日本中から木を集めて森を作り、さらに森の中に人間が手を加えない領域を作ることを提案しました。

(注)「生物の生息空間」を意味するが、特に人工的につくられたものを指す場合が多い。

――人工林によって生態系を成立させているのですね。

森田 昔の林がそのまま残っていると思っていたら大間違いです。都会の中にもビオトープのようなものを作ることで、生物にとっては全く違う世界が生まれます。環境を守るといっても、もともとある自然を残すだけでなく、多角的に考えた方がいいと思いますね。