気象予報士はもっと自分の考えを発信してほしい
――気候変動と表現された今の異常な気象を伝える上で、もどかしさを感じることなどはありますか。
森田 気象予報士制度ができてから、天気の伝え方が防災一辺倒になっています。お天気キャスターもそうですし、NHKは防災を伝えることが義務になっている。それはそれで、もちろんいいことで必要なことですが、僕自身は防災があんまり好きじゃない(笑)。線状降水帯が発生することばかり伝えているけれど、線状降水帯の予測は2、3割くらいしか当たらないわけだから、そればかり伝えるのはかえって良くないと思います。
個人的には防災というよりも、自然そのものに興味を持ってもらいたい。自然について考えることが、結果的に防災につながっていくんです。大雨が降っていて、これは危険だと気付くのは自分自身ですよね。だから、自分の五感をもっと大事にしてほしい。天気の伝え手は自分の興味から発信してほしいと思いますし、僕自身も現象を伝えていきたいです、
――今の危機を、どのように伝えたいと考えていますか。
森田 今年の暑さには複合的な原因があります。海水温がずっと高くなっていることや、太平洋高気圧が強かったこと、チベット高気圧が日本付近に張り出したこと、さらに亜熱帯ジェット気流が北に大きく偏って日本周辺で北に蛇行したことなどが同時に起きました。
複合的な現象の中でも最も重要なのは、二酸化炭素が増えていることです。二酸化炭素は地表から放射される熱を吸収して、地表に再放射することで気温を上昇させます。二酸化炭素を含む温室効果ガスの濃度が上昇していることが、間違いなく温暖化の原因でしょう。では、ここ3年の異常な気温の高さは何なのかと問われると、その答えの一つに挙げられつつあるのが、空気が綺麗になったことです。
――空気が綺麗になって、温度が上がっているのですか。
森田 国際海事機関は、2020年に船舶の燃料油の硫黄分濃度規制を強化しました。船舶の排ガス規制ですね。2020年以前に気象衛星の画像を見ると、海の上は船舶による煙だらけでした。煙の微粒子はエアロゾルと呼ばれて、周りの水滴を集めることで雲になります。雲は大気の透過率を下げることで温暖化にも作用していましたが、エアロゾルは太陽を遮ったり反射したりして、地表を冷やす効果もありました。
それが、大気汚染がなくなったことで、二酸化炭素による温度上昇が加速していることが、全部ではないけれども一部影響していると考えられています。以前は大気汚染がひどいと言われていた中国も、電気自動車が普及するなどして都市部の空気は綺麗になっていると聞きます。古い頭のままでいると、どんどん取り残される気がします。天気予報も同じで、防災のことばかり伝えるのはもう古いのではないでしょうか。
――その点から考えると、アメリカのトランプ大統領は、地球温暖化対策の国際的枠組みのパリ協定から離脱したほか、化石燃料産業を推進するなど、温暖化に影響を及ぼす政策を行っていますが、どのように感じていますか。
森田 排ガス規制の問題などと結びつけるのは違和感があります。トランプ大統領の考え方はおかしいと個人的には思いますけど、アメリカ国内の産業や雇用などの複合的な要因があって、そんなに簡単に語れる問題ではないですよね。批判するのであれば、二酸化炭素を出すことを批判すべきだし、二酸化炭素を出さない仕組みのエネルギー革命が必要だろうと思っています。
僕自身が大事にしたい価値は、自由であることです。自由があると同時に、一定のルールがあることが大事です。恐ろしいのは権威主義的な考え方ですね。少数の人間に全てを支配されてしまうような状況を、どうすれば制御できるのかに関心を持っています。天気予報でも定型的な文を読み上げて、防災一辺倒で伝えるだけではなく、線状降水帯の予報は3割程度しか当たらないといったことを、アンダーグラウンドでもいいから一定程度伝えた方が面白いのではないでしょうか。気象予報士はもっと自分で考えて発信した方がいいと思いますね。
(インタビュアー・田中圭太郎)
<森田正光(もりた・まさみつ)氏略歴>
1950年名古屋市生まれ。財団法人日本気象協会を経て、1992年に日本初のフリーお天気キャスターになる。同年、民間の気象会社、株式会社ウェザーマップを設立。親しみやすいキャラクターと個性的な気象解説で人気を集め、テレビやラジオ出演のほか全国で講演活動も行っている。
2005年より公益財団法人日本生態系協会理事に就任し、2010年からは環境省が結成した生物多様性に関する広報組織「地球いきもの応援団」のメンバーとして活動。環境問題や異常気象についての分析にも定評がある。学校法人桑沢学園東京造形大学客員教授、一般社団法人島バナナ協会代表、将棋ペンクラブ審査員。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。