2025年夏の日本の平均気温はこれまでの記録を大幅に上回り、統計開始以降で最も高くなった。気象予報士の森田正光氏に、異常な気象について分析してもらうとともに、今伝えるべき気象情報などについて聞いた。

異常気象が常態化して「気候変動」に

――2025年夏は記録的な高温でした。気象庁は6月から8月の平均気温の基準値からの偏差が+2.36になったと9月1日に発表しました。これまでの記録だった2023年と2024年の+1.76を大幅に上回り、1898年の統計開始以来最も高い記録です。この異常な高温をどうとらえていますか。

森田 国内で猛暑日になった地点の数は、暑い年だと言われた2010年や2013年でも4000前後でした。ところが今年は約9500もありました。これは過去最多です。一昨年は6000弱、昨年は9000弱だったので、この3年で猛暑日の地点数が1.5倍以上になるというとんでもないことが起きているんです。

――毎年のように異常気象と言われていますが。

森田 気象庁は「30年に1回くらいの頻度で起こること」を異常気象と定義しています。30年に1回の高温が3年も続くと、もはや異常気象ではないですよね。異常気象が常態化している今の状態は、気候変動と言い変えられます。今、人類は気候変動を経験しているのです。世界的に温度が最も高かったと考えられている平安時代から鎌倉時代の頃以上に、今は温度が高くなっています。

――なぜ平安時代から鎌倉時代の気温が高かったことが分かるのでしょうか。

森田 気象を類推する方法で、世界的に有名なのが福井県年縞博物館による調査です。三方五湖の一つである水月湖は、川につながっていないため、底にいろいろなものが積もっています。ボーリング調査で、その7万年分の堆積物を調べることで気温の変化が分かり、平安時代から鎌倉時代が最も高いことが判明しました。

『徒然草』に「家のつくりやうは、夏をむねとすべし」という有名な一節があります。これは、夏は暑くてどうしようもないから、夏のことを考えて家を作ろうという意味です。暑さに対応するために寝殿造や、庭に川や滝を作る文化が残りました。

――高温の原因は分かっているのですか。

森田 複数あるうち有力な説が、ミランコビッチ・サイクルです。コマが回転するとき、コマが微妙に首を振りますよね。自転している地球にも同じ現象が起きることで、太陽の当たり方が変わります。このサイクルによって気候が変わることが知られていて、当時は太陽の放射量が増えていました。しかし今はそういうサイクルでもないのに温度が上がっているんです。

――8月5日には群馬県伊勢崎市で、国内歴代最高の41.8度を観測しました。

森田 かつて40度以上の気温は、1933年に山形市で観測された40.8度が最高でした。これはフェーン現象によるものです。それが2007年に記録が破られると、40度以上が頻繁に出るようになります。今年の夏も多くの地点で40度以上が観測されましたし、北日本、東日本、西日本の平均気温が、平年より低くなった日はほとんどありません。「温暖化はしていない」と議論する人たちが今でもいますが、データを見れば温暖化していることは誰も否定できないでしょう。

――温暖化は人為的な問題ではないと主張する人たちもいます。

森田 今の温暖化は人間の関与がないと起こり得ないと言われています。最近はイベント・アトリビューションという考え方があって、人間の活動がどれくらい気候を変えているのか、大雨が降った場合にはどれだけ人間が関与しているのかなどを、科学的手法で評価できます。この手法によって、最近は人間の活動が8%から10%、気候に影響しているのではないかと見られています。そういう意味では、人間が関与した気候変動が起こり始めていると言っていいと思いますね。