「祖国」で直面する現実と私たちの問題
念願叶って日本国籍を取得し、日本に帰国しても多くの問題が存在します。彼らにとって「祖国ニッポン」ではありますが、経済的な問題や言葉の問題が立ちはだかります。これは中国残留日本人孤児の2世、3世も同じことが言えます。環境に馴染めず、孤立して道を外してしまうケースも少なくありません。
そこには何より、私たち受け入れる側の問題も存在するように感じます。彼らを「よそ者」として異端視する風潮が今も存在しないでしょうか。一方で、7月の参議院選挙でも見られたように、「日本という国」、また「日本人」をことさら強調する人たちがいます。それは「日本人の血」「日本民族の血」といった血統主義につながるかもしれません。
血統主義は、昔も今も、多くの過ちを犯してきました。現地で生まれた在留孤児2世、3世は、一部の人たちが言う「日本人」ではないのでしょうか。彼らもみんな日本人なのです。狭義の血統主義は改めるべきです。
戦後、フィリピンをはじめアジアの国々では反日感情が激しく、日本人としての出自を持つ人々は、その出自を隠して暮らさざるを得なかった人も多かったはずです。
この8月、私はこのコーナーで、日本の周辺の国や地域にとっての「戦後80年」をシリーズで4回にわたり紹介してきました。毎日何気なく見ている福岡の博多港にも、終戦後、大陸から引き揚げてきた多くの日本人を乗せた船が着いたという歴史が詰まっています。
戦後80年が経っても、今なお「戦前から続く、それぞれの戦後」を生きている人々が、日本にも、周りの国々にもいることを、私たちは忘れてはいけません。そして、今を生きる私たちにできることは何かを、強く感じる2025年の8月です。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める