誰かの努力だけでは解決しない

一方で、体制だけでいいのかも考えたい。知床には専門知識や技術を持つ人がいて、日々対策にあたっている。しかし、長年の課題も抱えてきた。

知床で車の前に現れたクマ

知床でクマ対策に向き合う人の言葉で、印象に残っているものがある。「クマ対策よりも、人対策のほうが難しい」ということだ。

一度クマを山へ追い払うことができても、人が問題行動をすることで、クマもどんどん問題行動をするようになっていく。たとえば食べものが入った荷物を外に置いておく、食べものや飲みもののごみを捨てる、直接クマにエサを与える、写真を撮りたくて近づいたり長時間つきまとったりしてクマの人慣れを進める、などの行動だ。

北海道・白雲岳で放置された登山客の荷物(2024年)

ヒグマは知床の豊かな自然の重要な構成要素であり、象徴でもある。だからこそ住民の安全を確保しながらどう共存するか、観光の視点も入れながら、共存の道を探ってきた。

しかし、本来はヒグマを魅力的に思って来たはずの観光客たちのマナー違反により、クマを駆除せざるを得ない状況に陥ってきた。そうした積み重ねで、次にそこを訪れた、無関係の人がリスクにさらされる。

知床でクマを見たり撮影したりしようとする人たちが作る「ヒグマ渋滞」(2019)

クマとの事故は、被害にあった個人の問題ではない。体制の問題であり、その前に積み重ねてきた一人ひとりの問題行動が招いたものかもしれない。知床の望ましい姿とは何か、そのために私たちはどう行動するべきなのかを、全国の方に真剣に考えてほしい。