「すべてのクマ事故は防げる」はずなのに

札幌市中央区円山西町でのヒグマ勉強会(2025年7月13日)

福島町の事故翌日、私は札幌市中央区の円山西町で開かれた「ヒグマ勉強会」へと向かった。参加していたクマの専門家・間野勉さんは、こう話していた。

「すべてのクマによる事故は防げるはずなのに、今の体制には、危険な兆候に気づいてすぐに対処するための手立てが圧倒的に足りていない。キーワードは『即応できる人と体制』」

福島町では事故の前から、目が合うと近づいてくるクマが目撃され、荒らされたごみ箱も見つかっていた。羅臼岳でも、数日前から登山道でクマと人が3~4メートルまで近づいたり、クマスプレーを噴射しても数分間付きまとわれたりしていて、注意が呼びかけられていた。

札幌市南区の住宅地に繰り返し現れたクマ。次第に明るい時間帯、人前でも堂々と行動するようになった(2019年)

本来クマは人を避ける動物だが、こうした問題行動をするようになったクマは「問題個体」と呼ばれ、行動が変わっていく。その危険な兆候を見逃さずに、速やかに対処する必要がある。

しかし、その判断と対応をすぐに適切にできる「人と体制」が不足している。専門知識を持つ人や、クマを捕獲する技術を持つ人がいない地域が多くあるのだ。危険な兆候に気づけなければ事故が起き、危険な兆候に気づいても適切な対応をとれないケースもある。

捕獲だけが選択肢ではない。たとえば、ごみやシカの死がい、電気柵などの対策をしていない畑など、クマを引き寄せる原因があるのに対処できないままでいたら、また次のクマが来るリスクがあり、根本的な解決とは言えない。草刈りにしても、どこにリスクがあるのかや、ほかの生態系への影響や住民の思いなどを含めて考えなくてはいけない。正しく状況を見極めて、地域の事情にあわせた対応を取る必要がある。

国や都道府県がリーダーシップをとって、専門知識や技術を持つ人を育て、各地域に配置し、地域ごとに事情や住民の要望も考えながら、正しい対応がとれる体制を作っていかなくてはいけない。そして全国の各市町村が、「いつ自分たちの地域で起きてもおかしくない問題」だと意識して向き合う必要がある。