■少年の言葉で臨床の最前線から「逃げた」
「私は、逃げてしまったんです」。そこまでして画像診断を続ける理由は意外なものだった。
松本医師は、聖マリアンナ医大の出身。当初は、患者と直接向き合う臨床医を目指していた。25年前の研修医時代に、白血病の少年から言われた一言が、松本医師のその後の人生を決めた。
「実習の最後の方で、その子が『僕死ぬの?』って聞いてきたんです。それを聞いたときに表向き、『君がそんなんじゃ、治る病気も治らなくなっちゃうよ』『もっと頑張んなくちゃ』って言ったのですが、とてもとても辛くて。彼は『自分が死ぬかもしれない』という大きな恐怖を、親にも先生や看護師にも聞かないで、ぽっと出てきた若造に思い切って、本当に勇気を振り絞って聞いただろうに。その恐怖とかを共有してあげ切れない自分、どんなに寄り添っても寄り添い切ることって難しいんだなというのを感じてしまったときに、僕自身は臨床の最前線から、逃げてしまった」
■「グリーンゾーン」にいる自分に「負い目」
「患者と向き合うことから逃げた」。その“負い目”を感じ続けながら、25年間、放射線医として生きてきた松本医師。その目の前で、コロナ患者の対応に当たる医療スタッフは、患者と日々向き合い続けている。
「壁、ガラスの向こう側で、頑張っている医療スタッフがいる。前線には、自分はいられない立場、グリーンゾーン(防護服がいらない清潔な区域)にいる立場です。これもまた負い目を感じる立場ではありますけど、我々にできることはとにかく画像しかなかったので、それで何か貢献できることがあれば、とにかくやらせていただきたいと思ってやっている」
感染の第5波が始まった現在も、これまでと変わらない生活を送っている松本医師。病院では新たに、医療体制のDX(デジタル・トランスフォーメーション=デジタルによる変革)に取り組んでいて、松本医師はそのリーダーを務めることになったという。
再びの感染拡大。今の現状をどう見るのか。
「壁一枚、ビニールシート一枚隔てたICUと、私がいるグリーンゾーンでは世界が全然違うが、物理的に近い位置にいるからこそ、この『近くて、でも全然遠い現実』を感じることができ、思いを馳せることもできます。でも、距離が離れて、時間が経ってしまうと、人の気持ちはどんどん離れてしまう。だから、我慢ができない人が出てしまった。その結果が、やはり第4波、第5波を生んでいると思う。その人たちと前線の現実を共有し続けられなかった、というのは感染拡大の要因の一つではないか」
そう話す松本医師は、メディアの果たす役割が重要だと言う。
「医療の最前線の現実と、そこから遠く離れた別世界を結ぶのがメディア。この2つの世界が離れ離れにならないように、つなぎ続けてほしい」
※2021年4月放送「ドキュメンタリー解放区」より