ベッセント財務長官「利下げ計画」に踏み込む
同じことを言っても、トランプ大統領が言うと「思いつき」の上に「攻撃的」で、時に「下品」に見えることが、ベッセント長官が言うと、まるで「説得力」があるように聞こえるから不思議です。普段、中央銀行の独立性や市場の自律性に重きを置く発言が多いからこそ、踏み込んだ時の効果が大きいのでしょう。
そのベッセント長官、翌13日にブルームバーグテレビで、「FRBは9月の0.5%利下げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろう」と述べると共に、「どのモデルで見ても、おそらく1.5%から1.75%引き下げるべきだろう」と明言しました。
9月の倍速利下げどころか、その後の連続利下げの必要性、さらにはターミナルレート(終着点)にまで、財務長官が具体的に言及するなど聞いたことがありません。株式市場が沸かないはずがありません。多くの機関投資家が運用指標の目安とするS&P500指数は、連日、最高値を更新しました。
外堀埋まるFRBパウエル議長
こうしたベッセント財務長官の畳みかける発言で、FRBのパウエル議長の外掘りは完全に埋まった感があります。そもそも、中央銀行のトップには、慎重な言い回しの中にも、金融政策の先行きを市場に織り込ませるパワー=威力があるものです。政策変更を事前に市場に「織り込ます」ことでショックを和らげると同時に、実体経済を目指す方向に誘導する効果さえあるわけです。
ところが、中央銀行のトップが慎重姿勢をキープしている間に、財務長官の口先介入で、金融市場はすでに9月の大幅利下げを織り込みにかかってしまったのです。こうなると、その「織り込み」を否定したり、まして利下げをしなかったりしたら、株価急落といった市場の混乱を招きかねません。パウエル議長は言いたいことが言えない状況に追い込まれました。
その上、先日、突如辞任したFRBのクグラー理事の後任に、トランプ大統領が自らのブレーンであるミラン大統領経済諮問委員会委員長を指名したことで、FRBの理事7人のうち3人が「利下げ派」で占められるに至りました。パウエル議長が3人が反対するような議案を提出することは、現実的にも厳しい状況なのです。
反響の大きさに驚いたのか、ベッセント長官は14日なって、「自分は中立金利のモデルの話をしただけで、FRBにその水準にしろと求めたわけではない」と幾分軌道修正しましたが、9月の0.5%引き下げを改めて求めるなど、圧力弱める気配はありません。














