女子100mハードルのレベルアップを象徴する2人の12秒7台

女子100mハードルは近年の記録上昇が著しい種目である。日本人初の12秒台は19年に、ママさんハードラーの寺田明日香(35、ジャパンクリエイト)が出した。まだ6年しか経っていないが、寺田が21年に12秒8台を出すと、翌22年に福部が12秒7台に突入した。その後の日本人選手の、12秒80未満の全パフォーマンスは以下になる。

◆12秒73(+1.1) NR 福部真子
 2022年9月25日 (岐阜、全日本実業団陸上)
◆12秒75(+0.8)福部真子
 2024年6月29日 (新潟、日本選手権準決勝)
◆12秒69(+1.2)NR 福部真子
 2024年7月20日 (平塚、オールスターナイト陸上)
◆12秒75(±0) 福部真子
 2025年7月5日 (国立競技場、日本選手権準決勝)
◆12秒71(+0.7)中島ひとみ
 2025年7月23日 (タンペレ、Motonet GP)
◆12秒71(+1.1) 中島ひとみ
 2025年8月9日 (平塚、オールスターナイト陸上)
◆12秒74(+1.1)福部真子
 2025年8月9日 (平塚、オールスターナイト陸上)
※NR=日本記録

福部しかいなかった12秒7台に、今季中島が加わってきた。

中島は中学時代に全日本中学選手権に優勝した選手。高校時代も日本ユースと国体で優勝したが、大学入学後は全国大会に勝つことができなくなり、主要国際大会の日本代表も経験していない。だがあきらめずに努力を続け、「周囲の色々な人たちから、積極的にアドバイスをもらう」(長谷川体育施設・石田智子監督)ことで、自身を成長させてきた。

同学年の福部も高校タイトルを取り続けた選手だが、シニアになって停滞期が長かった。しかし27歳となる22年シーズンに日本のトップに躍進した。中島もそれに触発されたかのように昨年、初めて12秒台(12秒99)をマーク。今年4月の織田記念に12秒93(追い風1.8m)で優勝し、5月のゴールデングランプリは12秒85(追い風0.7m)と記録を伸ばし、4位(日本人2位)に食い込んだ。そして7月の日本選手権で自身最高順位の2位に入ると(予選で12秒81)、30歳となって12秒71を連発した。12秒6台も目の前に迫ってきている。

「日本記録を出したからそれが1番ではなく、皆さんそれぞれのストーリーがあってのタイムの価値だと思うので、私もここまで来るまで本当に長かったので、自分にしかできない価値を、少しずつ作れていけたらいいな、と思います」

今の100mハードルの選手たちは、寺田が率先してコミュニケーションを取り、トップ選手全員がフランクに話をする雰囲気ができている。走り終えれば敵味方なく、反省会が自然と行われる。中島がフィンランドで標準記録を突破して帰国後に、国内で負けることを気にしないでレースに出場できたのは、その雰囲気が背景にあったからかもしれない。

そして22年から日本記録保持者となっている福部に、万全でなくても12秒7台が出せる底力があったから、女子100mハードル史上最高レベルの戦いが実現した。女子100mハードル全体の成長を象徴するレースだった。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

※トップの写真は左が中島選手、右が福部選手(日本選手権)