「(12秒7台で)走れるほど悔しい」(福部)

今シーズンの福部は、完全な準備ができずに試合に出るパターンが続いている。12秒69(追い風1.2m)の日本記録を出したのが、昨年7月20日のオールスターナイト陸上だった。福部は22年オレゴン世界陸上と、昨年のパリ五輪で準決勝に進出した選手。12秒73の標準記録は難しくないと、自他ともに認識していた。

福部選手(オールスターナイト陸上)

だが昨秋に菊地病(組織球性壊死性リンパ節炎)を発症。不定期に発熱し、練習を中断せざるを得ない状況が続いている。それに加えて左ヒザと右アキレス腱にも痛みを抱えている。今季は5月末のアジア選手権を欠場。アジア選手権は世界ランキングのポイントが大きい試合で、標準記録を突破できなかったときのことを考えると大きなマイナスだった。

日本選手権前は少し練習を積むことができて、準決勝で12秒75をマークした。しかし現時点では連戦ができない体の状態のため、決勝は12秒93(向かい風0.4m)の3位に終わった。それでも「12秒5台中盤は見えてきました。8月に標準記録を突破できると思う」と好感触も得ていた。

だが8月3日の富士北麓ワールドトライアルは12秒80(追い風0.9m)、そして今大会が12秒74と好タイムを連発したが、標準記録には届かなかった。富士北麓ではまだ「文句を言っても元気な時には戻れない、受け容れてやっていくしかない」と前向きなコメントをしていた。だがオールスターナイト陸上では「(12秒)74というタイムを見た時は、あと0.01秒はしょうがないよね、と思う反面、これだけ出せるんだったら…」と言ってしばらく言葉を詰まらせた後に、「練習したいな。普通に」とつぶやくような声を絞り出した。

世界陸上標準記録の適用期間は、福部が12秒69を出した12日後の昨年8月1日からだった。今季は日本選手権準決勝で0.02秒、オールスターナイト陸上で0.01秒、標準記録に届かなかった。

「昨年、一生懸命体を作って、絞って、何回も練習してやっと出した12秒8台、7台中盤を、練習にも値しないような練習で、アベレージとして走れています。練習さえできていたら12秒5台とかで走っているのかな、と思うと、(12秒7台で)走れるほど悔しい」

福部の苦悩が痛いほど伝わってきた。