近隣諸国への対応で決定的に異なる両派
容認派や危惧派は、年代や生活満足度の違いで分布に差が見られましたが、他にはどういった違いがあるのか。政治・経済・社会に関する様々な意見について比べてみたのが、次の折れ線グラフです。

上のグラフで並べた9つの意見のうち、(1)~(4)は全体で上位を占めたもの。どれも現在の社会や制度などに不満や疑問を示す内容ですが、容認派も危惧派もともに7~8割が「あてはまる」と回答。実は両派にあまり差はなく、選択率が2~4割程度の「どちらでもない」人との間に大きな差がありました。
一方、両派で明確に違いがあるのが、韓国や中国といった近隣諸国との関係。容認派はそれぞれの国と「もっと友好関係を築くよう努力すべき」という意見への賛同が多いのに対し、危惧派では「その必要はない」との意見のほうが多くなっています。ちなみに「どちらでもない」人はどれも1割程度。
こうしてみると、全般に選択率が低い「どちらでもない」人に比べて、容認派や危惧派では、社会的な事柄に自分の考えを持っている人が多数。そして両派で考え方が一致する話題も多い様子。しかし、近隣の外国への向き合いでは明確に違いがあり、そこが両派を分けている印象があります。
民意はどこにあるか
昨年(24年)10月の調査データを分析してきましたが、外国人労働者増加を問題視する見方は現状への不満と関係がありそうだ、というのは、今回の参院選の結果にも通じていそうな話です。
外国人労働者は移民として受け入れないのが、今のところの政府方針です。しかし、少子高齢化が進んだ現在の日本社会で不足する労働力を、外国人労働者で補っている現状があるのも事実。
外国人労働者の存在に実害を感じた経験のない筆者には、長期滞在する外国人に関わるトラブルは「日本社会の一員として、守るべきルールを守ってもらう」スタンスで対処するのがよいように思えます。
今回の選挙で示された民意(の一部)は、政府方針の徹底を望んだものなのか、それとも生活の不満が解消されれば落ち着くものなのか、冷静に見定める必要があると考えます。
注1:参議院議員普通選挙の全国投票率は、選挙区が前回(2022年)52.05%→今回(2025年)58.51%(+6.46ポイント)、比例代表が前回52.04%→今回58.51%(+6.47ポイント)でした(総務省発表)。
注2:TBS生活DATAライブラリ・定例全国調査は、TBSテレビをキー局とするテレビの全国ネットワークJNN系列が、毎年11月に実施する大規模ライフスタイル調査です。同じ回答者にメディア行動や価値観、個人財・世帯財の購入などを総合的に調査するシングルソースデータです。
注3:容認派と危惧派の選択肢を両方選んだ人も7人いましたが、以後の分析からは除いています。
注4:無回答が79人いましたが、分析から除いています。
引用・参考文献
●厚生労働省 外国人雇用状況の届出状況(平成21年10月末現在)について
●厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成26年10月末現在)
●厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)
●厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末現在)
●内閣官房 平成26年4月4日 建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置について
●総務省 令和7年7月20日執行 参議院議員通常選挙 発表資料
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング局も兼任。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。