頼総統の連続講演と台湾の分断
一方、「脅威」とされた中国は、痛烈に頼清徳総統を非難し続けています。頼総統はリコール投票が決まった直後から、自らの政策の正しさを有権者に訴えようと、現在10回連続の講演活動を展開しています。「国家を団結させるための講演」と名付けていることから想像できるように、連続講演で一貫しているのは「外からの脅威」(=中国)を前に、台湾が一枚岩になろう、そのためにもリコールを成立させよう――というもののようです。
頼総統が現在続けている連続講演の内容に対しても、中国メディアは「火遊びはやめろ」「自作自演」といった表現で反論・非難しています。
民進党支持の団体が仕掛けたリコール運動、リコール投票の実施、最大規模の演習、そして頼総統の連続講演――。一連の流れをたどると、私は最初から政権与党・民進党、そして民進党のトップである頼総統サイドが「画」を描いていたようにも思えます。中国側が「火遊び」と表現する理由は、そこにあるのかもしれません。
ただ、政策を「推進できないから」と言って、リコールという手段で、反対派を排斥しようとしていいのでしょうか。確かに、台湾にとって中国は最大の脅威です。しかし、それを強調するあまり、民意を煽るのは疑問に感じます。台湾内部の団結とは逆に、分断に向かわせることにならないでしょうか。
リコール投票によって、台湾立法院で政権与党・民進党が過半数を獲得し、勢力図が変われば、中台関係はさらに緊張し、それは日本の安全保障にも影響が出るでしょう。だからこそ、私たち日本に住む者も、台湾で26日に行われるリコール投票は無関心ではいられません。20日の参議院選挙に続く、この投票の行方が非常に気になります。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める