日本記録保持者の“為末先輩”と同じ前半のスピード

種目は異なるが井之上の特徴も、前半からハイペースで飛ばすレース展開にある。日本記録(47秒89)保持者の為末大は法大の先輩にあたるが、5台目はほぼ同じタイムで通過できる。

為末は世界陸上エドモントン(2001年)と、世界陸上ヘルシンキ(2005年)の銅メダリスト。前半を爆発的なスピードで世界のトップ選手たちをリードした。当時よりタイムが大きく短縮されているため、同じスピードでは前半をリードできないかもしれないが、47秒台を準決勝で出せば決勝に進出できる。

井之上は自身の特徴と課題を次のように話す。

「5台目と8台目を指標としていて、為末さんは5台目通過を20秒7〜8台でコンスタントに走っています。僕も20秒8から21秒1、2くらいで通過しますが、(インターバル歩数を)13歩から14歩に切り換える6台目や、15歩に切り換える8台目でハードル間タイムが0.2~0.3秒落ちてしまい、さらに9台目、10台目で着地後の動きが崩れて大きくロスをしてしまいます」

特に今季は、昨年のように48秒台を出すことができず、5月の静岡国際とアジア選手権(韓国クミ)では50秒を切ることができなかった。アジア選手権から帰国後は「前半を0.1秒抑える気持ちで入って、後半を1秒速くする」という考え方に変えて練習に取り組んだ。その成果が日本選手権で表れた。前半をリードするのは同じで、終盤で優勝した小川と2位の山内大夢(25、東邦銀行)に抜かれたが、大きな差をつけられることなく3位でフィニッシュ。昨年9月に48秒46と標準記録を突破していることで、世界陸上代表に内定した。

井之上にとって昨年の日本インカレ準決勝で出した48秒46が、大きな意味を持つことになった。