基地建設がもたらす“特需” 対岸の島では人手不足に
馬毛島の対岸、種子島の港には、 毎朝2000人近い工事関係者を運ぶ漁船が並ぶ。「海上タクシー」だ。収入は1日あたり8万円。1か月で160万円にもなる。漁をやめて、海上タクシーに専念する漁師もいる。

漁師
「漁をしているより、(収入は)いいことはいい。漁は毎日出て魚を釣って来ないとお金にならない」
基地建設がもたらす“特需”を冷静にみている漁師もいる。
漁師
「5年後(建設が)終わった後、どうなるか。飲食店もホテルも漁師もまだピンとこない。先を見ている人はまだいないと思う」
漁師の間では、基地に関する話題は避けているという。
漁師
「そこを言うと、けんかになったり、仲が悪くなったりするんで」

朝の競り。旬のハガツオに、アオリイカが並ぶ。
海上タクシーや警戒に出る漁船が多い日は、市場に並ぶ魚がめっきり減る。魚の仕入れは、基地建設が始まってこの2年半で、4割減ったという。

鮮魚店経営
「きょうはあるほうですから。(仕入れ値は)平均して4~5割上がっている。米騒動もあるが、魚も2年前から大変」
基地建設には6000人近くの労働者が吸い上げられ、種子島にも深刻な人手不足をもたらしている。

ハローワークに行くと、馬毛島基地の求人コーナーが特設で作られていた。求人票には月額60万円、さらには100万円と書かれたものまである。
養護老人ホーム職員の和田香穂里さん。ここでも人手不足が慢性化している。
入所者
「きょうなんか、もうぐちゃぐちゃ。来もせんし」

養護老人ホーム職員 和田香穂理さん
「ごめんなさいね。人がおらんでな。迷惑かけてごめんなさいね」
勤務表を見せてもらうと…
養護老人ホーム職員 和田香穂理さん
「ずーっと誰かいない。最悪、3人もいない日もあった」
この施設は本来50人を収容できるが、今後40人に減らすという。

養護老人ホーム職員 和田香穂理さん
「いろんな島で駐屯地ができる、ミサイルが配備されるという話を聞いたから、基地工事が始まるとこんなんだよっていう話を聞いたことがあるけど、まさか介護のところに人がいなくなるとは思いもしなかった、正直」
周辺の島で広がる不安 屋久島にも軍用機が
馬毛島から南西に40キロ、世界自然遺産の島・屋久島。屋久杉をはじめ、ここでしか見られない手つかずの自然が残されている。だが、2年前…

記者
「オスプレイの機体の一部でしょうか。プロペラも見えます」
屋久島沖で起きたアメリカ軍のオスプレイ墜落事故。乗員8人全員が死亡した。残がいの回収や乗員の捜索に、地元の漁師も協力した。オスプレイの事故としては最悪だった。

捜索・救助に協力した漁師
「近くを飛んでいたとは思わなかった。(今後も)絶対飛ばないということはないと思う」
馬毛島で計画されるアメリカ軍の戦闘機訓練。詳細な飛行ルートについて私たちの取材に対し、防衛省は明確な回答をしていない。
屋久島の山岳ガイド・内室紀子さん。24年前に神戸から移住して結婚し、今は2児の母だ。
オスプレイを島で初めて目撃したのは、墜落事故の3週間前だった。

屋久島の山岳ガイド 内室紀子さん
「『なんか音がするね』って空を見上げたらオスプレイが2機、屋久島の上を南西方向に飛んだ。私たちの暮らしの上に軍用機が飛んでいくという事実を思い知らされた」
世界自然遺産の森に軍用機の轟音が鳴り響く。馬毛島の基地が、屋久島にそんな日常をもたらすおそれはないのだろうか。
屋久島の山岳ガイド・内室紀子さん
「(軍用機が)飛んでいく先に、私たちには見えない、知り得ない中国とかアメリカとの関係があるのかとか、いろんな思いが出てくる。だけど所詮、離島に住んでいる1人の人間なので、私が声を上げたところで、というあきらめの感情も生まれる」

南西諸島には、有事への危機感が広がる島もある。屋久島の西12キロに位置する口永良部島。86人が暮らす火山島だ。
中国海軍の艦艇が近海を頻繁に航行するようになり、領海侵入も起きた。

住民
「抑止力において、防衛においても(馬毛島基地建設は)仕方ない。台湾有事になった時、この島に危機感と心配はある」