世界陸上銅メダリストに導かれて
しかしブダペストでは予選で3回ファウル、記録なしに終わった。現地入りしてから判明した右脛骨の疲労骨折が原因だった。
「不甲斐ない結果を皆さんに見せてしまいました。自分でも消してしまいたい結果ですが、ブダペストがあったから東京世界陸上がある。そう思えるような万全の準備をして2カ月後を迎えたい」
昨年は右脛やアキレス腱の痛みも影響して、シーズンベストが80m07にとどまり、パリ五輪代表入りはかなわなかった。
それに対して今季は3月に豪州で80m86、4月末の織田記念で82m96、5月末のアジア選手権(韓国クミ)では83m75の自己新で3位と、過去最高のアベレージを残していた。特にアジア選手権はパリ五輪金メダリストのA.ナディーム(28、パキスタン)ら、強豪が揃っていた試合だった。
「あのメンバーの中でしっかりと投げて3番に入ったことは自信になりました。4番とか5番だったら、考え込んでいたかもしれません」
﨑山の80mオーバーは過去、19年、22年、23年、24年とシーズンに1試合しかなかった。今季80m台の試合が多いのは、以前は少なかった「はまった」という動きが出現する確率が、格段に上がっているからだ。﨑山は理由を「右足の着き方を変えました」と説明する。
「助走の最後に右足、左足とついて投げる局面で、右足の上に長くいられるように変えている最中です。長くいられれば、そのまま踵を上げるだけで自然に、右足から左足へと重心移動ができるんです。以前は無理矢理合わせにいっていたところがありました」
その部分の技術が「嫉妬するくらいに上手かった」(﨑山)のが村上氏だった。「動画も見て勉強していますが、そもそも村上さんも浜元先生の教え子なので、僕もベースは同じだと思うんです」。
浜元氏からは「88mは投げられる。村上を超えられる」と言われ続けて来た。「その日が今日、日本選手権という大会で来たことがうれしかったです」と、村上氏のベスト記録(85m96)を超えられたことを喜んだ。
世界陸上の目標も村上氏超えである。
「日本人でもやれるんだぞ、とずっと思ってきましたし、目標は村上さんを超えることなので、銅メダル以上を取りたいと思っています。今日の記録でも3番に入れるかどうか、というくらいに世界のレベルは高いです。チャレンジャーとしてしっかり勝負をできるようにしていきたい」
世界陸上男子やり投唯一のメダリストに導かれ、﨑山が東京世界陸上でメダルに挑戦する。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

















