AIは「伴走者」

そして、制作の中で私たちが気づいた、もうひとつの大きなことがあります。

それは、AIが“壁打ちの相手”として、クリエイティブな作業の伴走者になってくれるということです。

脚本づくりは、時にとても孤独な作業です。一人で物語を練り、台詞を組み立てる中で、考えが煮詰まってしまうことも少なくありません。そんなとき、AIは絶えず問いかけに応えてくれます。

「このキャラクターはなぜ怒っているのか?」
「別の視点から見たらどうなるか?」

そうしたやりとりを重ねることで、自分自身でも気づいていなかった感情の流れや構造が見えてくることがあるのです。

もちろん、AIの出す答えがすべて正解というわけではありません。けれど、一人で考えていたら思いつかなかった視点を示してくれることで、発想が広がり、作品が深まっていきます。それはまるで、そっと隣にいてくれる“話し相手”がいるような心強さでした。

AI橋田壽賀子は、橋田壽賀子先生そのものにはなれません。

けれど、先生の言葉やドラマの構造を学びながら、いまを生きる私たちの創作を支えてくれる“対話のパートナー”にはなれるかもしれない――。そう実感できたことこそ、この一年間で得た何よりの成果だったように思います。

現在、この作品はTVerおよびU-NEXTで配信中です。(2025年7月2日現在)

AIが物語を代わりに作るのではなく、人とAIが共に創る――その最初の一歩として、この試みが未来への希望につながっていけば嬉しく思います。

ぜひ、ご覧ください。

<執筆者略歴>
山崎 恆成(やまさき・つねなり)
一般財団法人橋田文化財団 理事。中央大学客員教授。

大学卒業後TBSに入社。主にドラマ畑を歩む。『渡る世間は鬼ばかり』第一シリーズより演出を担当。

石井ふく子プロデューサーとは長い付き合いで、ドラマ特別企画『わが家は楽し』(2025)の制作にも参加。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。