今、ウクライナで何が起きているのでしょうか。挑発の裏に潜むロシアの思惑、その背景にある歴史の溝…緊迫のウクライナ情勢を取材しました。(報道特集 2月19日放送より抜粋・編集)
■在日ウクライナ人は今の状況をどう感じているのか
日本にいるウクライナ人は、祖国をとりまく情勢をどう見ているのでしょうか?日本の商品をネットを通じて世界中に販売する大阪市のベンチャー企業「ゼンマーケット(株)」。海外では日本の化粧品や釣り具、衣類が良く売れると言います。
「ゼンマーケット(株)」を起業したのはウクライナ人のグループで社員100人のうち、半数以上はロシアを含む27か国出身の外国人です。普段、政治的なことを話さないようにしていますが、ウクライナ人同士で集まれば、今の祖国が置かれている状況は気になるようです。
ゼンマーケット(株) 代表取締役 ナウモヴ氏:
「今のウクライナの状況は本当に心配です。まさか21世紀に戦争になるかもしれないという状況に陥ると思っていなかったのですが…家族も自分の国も、とても心配です」
ーー家族との連絡は?
同代表取締役 スロヴェイ氏:
「ほぼ毎日のように(連絡を)とっています。本当に侵攻があれば今まで体験したことのない大変なことになるため、家族とは『どうする?』と、話し合っているところです」
同代表取締役 コーピル氏:
「首都(キエフ)に対して核兵器が使われないかすごく心配です。(核兵器が)使われたらどうなるのか。ウクライナ人もおそらくパニック状態に陥ってしまう」
ウクライナ人の女性社員にも話を聞いてみました。
女性社員:
「最初、この状況について聞いたとき『またかよ』と思いました。どうしてウクライナをほっておいてくれないのか」
別のウクライナ人女性社員は次のように話します。
女性社員:
「一番の感情は心配というよりも怒りですね。隣国の欲望のために、自分の親・兄弟・自分の一緒に育った人たちが明日どうなるのかわからないという現状に関して、非常に怒っています」
■ウクライナ問題~その背景にあるもの
ロシアと国境を接するウクライナ東部。緊張が高まるこの場所に、世界の注目が集まっています。先月、JNNの記者がウクライナ東部ルガンスク州に入り取材を行いました。
ロシアとの国境付近にはウクライナ軍が常駐しており、緊迫感が漂っています。前線のウクライナ兵が対峙するのはロシア軍だけでなく、同じ州内に住む親ロシア派武装勢力からの攻撃もあるようです。武装勢力との衝突は2014年から続いており、これまでに約1万4000人もの死者が出たと言います。
元々、ソ連の一部だったウクライナはソ連崩壊に伴う独立後も、ロシアと良好な関係を望む住民が多くいました。しかし、その状況が大きく変わった出来事があります。
2014年、親ロシアの大統領が失脚するきっかけとなった反政府デモです。
この反政府デモでは、デモ隊と治安部隊の激しい衝突の末、100名を超す市民が命を落としました。結果、親ロシア派の政権が倒れ、親欧米派の政権が誕生します。
これに危機感を抱いたロシアは、ロシア系住民が多いクリミア半島を一方的に併合。さらにウクライナ東部で親ロシア派の勢力が武装蜂起し、実効支配するようになりました。そこには、ロシア側の軍事的支援があったと見られています。
「ロシアはウクライナを分裂状態に置くことで欧米化の流れを阻止する狙いがあったのではないか」と話すのは、ウクライナとロシアでのビジネスに関わり現地の事情に詳しい西谷公明氏です。
西谷氏:
「公式には(親ロシア派の武装蜂起に)ロシア政府は関わっていないと言っているが、国境地帯は開います。今も、人・物・資金・弾薬・兵器など、出入り自由と言ってもいいんです。ウクライナのNATOの加盟を阻むための楔ということでロシアは(軍事支援を)やったんだろうと」
一方、ウクライナの人たちの反発はむしろ高まったとみられます。ロシア政府は2019年、親ロシア派が実行支配するウクライナ東部2つの州のロシア系住民に対し、ロシア国籍を与えるとしましたが、これに応じたのは3分の1にも満たないという結果となりました。
西谷氏:
「ロシア系住民ですら、ウクライナ国籍のままでいることを選んでいるという現実が、プーチン大統領の目の前にあるんですね」
ーーそうなるとプーチン大統領としては危機感を持ちますよね?
西谷氏:
「今回の件も含めて、その危機感はプーチン大統領の根底にあると思います。多くのロシア系住民も含めて、ウクライナが西(欧州)を向く国になったのが大きな変化だと思います。その現実はとても大きい」