90歳の誕生日前、後継者選びに言及か
ダライ・ラマ14世は、7月6日に90歳の誕生日を迎えます。チベット亡命政府のあるインド北部では、6月30日から一連の誕生祝賀行事が始まります。そして、その誕生日を前に、自身の後継者選びに関する声明を発表すると見られています。声明が発表されるのは7月2日です。日本や欧米でも、チベット仏教の精神世界を信奉し、ダライ・ラマを崇拝する人は多く、この声明に注目が集まるでしょう。
チベット仏教を象徴する言葉に「輪廻転生」があります。すべての生き物は死後に生まれ変わるという教えです。中でもダライ・ラマは観音菩薩の化身、すなわち「生き仏」とされています。歴代ダライ・ラマは、死去後に僧侶たちがその生まれ変わりと認定する男の子を探して後継者にする伝統が続いてきました。現在の14世も、13世の死去後に2歳(88年前)で後継者になりました。しかし、14世までは「チベットの中で」生まれ変わりの少年を探してきたという点がポイントです。
中国以外からの選出、女性の可能性も
現在、14世はチベットを追われインドにいます。チベットでどのように後継者を探すのか、という疑問が湧きます。だからこそ、14世自身による後継者選びに関する声明が注目されるのです。チベット亡命政府のあるインド北部では、7月2日から3日間、チベット仏教の聖職者による会議が開かれます。その初日である2日に、ダライ・ラマ14世がメッセージを発する予定です。
どのような内容になるのか、ヒントはダライ・ラマ14世が今年3月に出版した書籍にあるように思います。アメリカで出版され、日本ではまだ出版されていないその本のタイトルは『Voice for the Voiceless』(声なき者たちへの声)。つまり、共産党による宗教支配が厳格な中国のチベットに残り、チベット仏教の教えに沿うような声を上げられないチベット族に向けたメッセージなのでしょう。サブタイトルは「チベットの大地、チベットの民のために――70年を超える中国(共産党)との闘争」(Over Seven Decades of Struggle With China for My Land and My People)と翻訳できます。
ダライ・ラマはこの本の中で、自分の後継者(15世)は「中国以外で誕生する」と述べています。このほか、2日に発表される声明では「自分が世を去る前に、次のダライ・ラマを指名する」、もしかしたら「男性女性を問わない」といった内容も含まれるかもしれません。後継者は「チベット以外から見つける」、そして「自分の生前に指名する」、さらには「女性」かもしれない――。これらはすべて、初めてのことになる可能性があります。
どのような声明になるかは分かりませんが、初代ダライ・ラマが活動したのは15世紀。チベット仏教最高指導者の位が脈々と受け継がれてきた中で、現在のダライ・ラマ14世がチベットにいないという事態だけに、後継者選びはこれまでの例から大きく転換することになりそうです。