「あ、ママ」
ベッドの脇に立っていたのは、少女の母親。
起きたばかりの娘に、母親がつぶやく。
「ゴメン、ママもう無理。一緒に死のう・・・」
そして娘の胸に、握りしめた包丁を振り下ろした-
2021年4月、東京都内で起きた殺人未遂事件。40代の母親が無理心中を図り、高校生の長女と大学生の長男を刺し殺そうとしたとして、逮捕・起訴されました。
捜査当局によると、犯行に使われたのは、刃渡り20センチの刺身包丁。複数回刺されたという長女は、左胸の傷の深さが刃渡りと同じ20センチにも達し、傷口からは呼吸するたびに血が吹き出たといいます。
妹の悲鳴を聞いて駆けつけた長男も、母親に胸をひと突きされました。長男は胸に刺さった包丁と母親の手をつかんで包丁を引き抜き、母親を屋外へと押し出して、警察と消防に通報。母親は駆けつけた警察官によって確保され、2人の子どもは病院へと救急搬送されました。
突き刺した刃がわずかに心臓や肺を逸れていたことから、長女は奇跡的に一命を取りとめたものの、全治1か月の重傷を負い、長男も右の肺が傷つくなど全治11日の大けがをしました。
なぜ、母親は子どもを殺そうとしたのか-
その理由を知りたいと思い、私は裁判所に向かいました。
土曜日の朝。部屋で寝ていた少女は、枕元に人の気配を感じて、目を覚ます。