偉大な経歴と好感度の推移

調査結果は質問の仕方に左右されていますが、改めて最初の折れ線グラフの動きを、長嶋さんの経歴をなぞりながら眺めてみます。

第一次監督期の77年はリーグ優勝しましたが、78年2位、79年5位と成績が下がると好感度も低下。監督を辞任した80年の成績は3位、好感度は男性6割、女性5割で、これがこのデータではピーク。

80年の監督辞任以降は、84年ロサンゼルス・88年ソウル・92年バルセロナのオリンピック夏季大会といった大型スポーツイベントのレポーターや、85年の日本トライアスロン連盟初代会長就任など、「スポーツ全般の伝道者的役割」(ウィキペディア)を演じて、精力的に活動。

好感度のほうは、87年までの「好きなスポーツ選手」枠だと、男性5割、女性3割を維持。しかし、88年以降「好きな話題の人」枠に移ると、男性が3~4割、女性が2~3割くらいにベースダウン。

88年前後で長嶋さんの活動に大きな違いはなく、逆に93年~01年の第二次監督期でも好感度の上下は88年~92年の上下幅と大して変わらない印象。

コーホート分析の年齢効果やコーホート効果から、長嶋さんは相変わらず好かれていたと推測します。

しかし、スポーツ選手の名前が並び「あの人もこの人も好き」と答えやすい質問か、それとも政治家などの名前が並び「あの人もこの人もいかがなものか」となりやすい質問だったのかが、かなり数字の出方に影響したようです。

その後、04年に脳梗塞を発症し、野球日本代表監督に就任していたアテネオリンピックに参加できず。右半身に麻痺が残りましたが、「一度でいいからオリンピックに出てみたいと」(TBS NEWS DIG、2025年6月8日)の思いで懸命にリハビリに挑戦。その姿をテレビなどで目にした人も多いはず。

13年に愛弟子の松井秀喜さんと国民栄誉賞を同時受賞。21年の東京オリンピックでは、王貞治さん、松井さんと一緒に聖火リレーに参加し、同年に文化勲章を受章。

やはり、12年前後で長嶋さんが不人気になるような出来事はなく、こちらも質問の仕方が変わったので、好感度の数字に影響が出たといえます。

同じ「好きな話題の人」質問だからといって、結果だけ眺めていたら「なぜか12年に人気が急落」と誤った解釈をしていたかも知れません。

柔らかめの「好きな話題の人」質問で、昨年(24年)の長嶋さんの好感度は7.1%(注5)。低いように見えますが、選択肢になった50人では第9位。

1位「YOASOBI(ヨアソビ)」19.9%、2位「Ado」17.3%、……と上位にアーティストが並んだランキングで、8位の芸人「とにかく明るい安村」7.9%と10位のユーチューバー「HIKAKIN(ヒカキン)」6.8%に挟まれているのが長嶋さんでした。

こんな89歳、他にいません。やっぱり唯一無二の特別な存在だった「ミスター」に、心からご冥福をお祈りします。

注1:TBS総合嗜好調査は、衣食住から趣味レジャー、人物・企業から、ものの考え方や行動まで、ありとあらゆる領域の「好きなもの」を調べる質問紙調査です。TBSテレビが、東京地区(1975年以降)と阪神地区(1979年以降)で毎年10月に実施し、対象者年齢は、1975年が18~59歳、76~2004年が13~59歳、05~13年が13~69歳、14年以降は13~74歳となっています。

注2:分析の基となるコーホート表は「東京地区」「13~59歳の1歳刻み」「1977年から1年ごと」のデータで男女別に作成しました。また、本稿では朝野煕彦(2012)で紹介されている「パラメータの簡易推定法」で計算を行いました。

注3:コーホート効果で、男性の左端(1918~19年生まれ)や右端(2008年生まれや2011年生まれ)、女性の右端(2007年生まれ)で、長嶋さんの人気がプラス方向に突出しています。これはデータの少なさによる推定精度の劣化、いわゆる「端の効果」(朝野、2012)が表れていることも考えられます。

注4:男性の長嶋さん好感度について、データの変動全体を100%としたとき、3つの効果が占める割合(パラメータの分散の構成比)は「年齢効果16%・時代効果51%・コーホート効果33%」でした。同様に女性の好感度では16%・60%・24%となり、いずれも時代効果が最も大きいという結果でした。

注5:2024年11月実施の東京地区データで、13~59歳男女1,020人を集計した結果で、以後の数値も同様です。

引用・参考文献
● 朝野煕彦(2012)『マーケティング・リサーチ ―プロになるための7つのヒント』講談社.
● 「長嶋茂雄」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年6月22日(日) 02:45 UTC

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング局も兼任。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。