東欧のみならず、ドイツやフランスなどでも着実に勢力を伸ばしつつある極右勢力。EUの役割に否定的で、移民流入の制限やウクライナ支援見直しが共通する主張だ。欧州各国で極右勢力が熱狂的な支持を集めるのは何故なのか。直近の動向を踏まえながら、JNNのパリ支局長が報告する。
異例の“やり直し大統領選挙”で優勢だった極右候補がまさかの逆転負け
5月18日、東欧のルーマニアで、やり直しになっていた大統領選挙の決選投票が行われた。親EU派で首都ブカレストの市長、ニクショル・ダン氏と、トランプ大統領の「自国ファースト」を模倣する極右政党の党首、ジョージ・シミオン氏の一騎打ちとなった。
決選投票の前に行われた1回目の投票では、極右のシミオン氏が得票率41%と2番手だったダン氏の21%を大きくリードしていた。決選投票でもシミオン氏の優勢が伝えられていた。
しかし、決選投票の結果は、ダン氏が得票率54%、シミオン氏が46%と、ダン氏が逆転して勝利したのだ。

ルーマニアは人口がおよそ1900万人でEU加盟国の中では主要国とは言えないものの、今回の大統領選挙は世界的に注目を集めた。
当初、ルーマニア大統領選挙は去年11月に行われていた。その1回目の投票で得票率23%を獲得して首位に立ったのが、極右のカリン・ジョルジェスク氏だった。

ジョルジェスク氏は、支持率が当初1%にも満たない無名の存在で、地元のテレビ報道でもほとんど取り上げられない「泡沫候補」だった。そんなジョルジェスク氏がなぜ、本命視されていた当時の首相らを抑えて首位になったのか。
1回目の投票後にルーマニアの情報機関が公表した機密文書には、SNSのTikTok上で情報操作が行われたことが記され、さらに“ロシアによる介入”が示唆されていた。
具体的には、合計800万人のフォロワーを持つインフルエンサー100人以上が資金提供を受けて、TikTok上でジョルジェスク氏の宣伝を行ったという。さらに休眠状態だった2万件以上のアカウントが選挙直前に急に活発化し、ジョルジェスク氏を支持していたとも指摘された。
若者たちがこうしたTikTokの影響を受けて、ジョルジェスク氏に投票したとみられる。こうした事態を受けて、ルーマニアの憲法裁判所は「デジタル技術の不透明な利用により有権者の投票が誘導され、候補者同士の平等な競争が歪められた」として、選挙結果を無効にするという異例の判断を下したのだ。
やり直しの大統領選挙には、ジョルジェスク氏の立候補は認められず、彼を支持する人たちの受け皿となったのが、思想が近かったシミオン氏だった。
大統領になれば「ジョルジェスク氏を首相に」と公言するも…
無効になったルーマニア大統領選で最多得票だったジョルジェスク氏は公約に「ルーマニアファーストで反EU・反NATO」を掲げていた。ウクライナ支援には「明確にノーだ」と強調し、ロシア寄りの主張を展開していた。そんなジョルジェスク氏が、やり直しの選挙ではシミオン氏の支持を表明。シミオン氏は「自国ファースト」を掲げ、「反EU・ウクライナ支援の削減」を公約に選挙戦を展開した。

さらに大統領になれば、ジョルジェスク氏を首相に任命すると公言し、右派票の取りまとめを進めた。これまでルーマニアはウクライナの隣国として、地対空ミサイルシステムの供与や、ウクライナ軍のパイロットの訓練支援など重要な役割を担ってきたが、シミオン氏が大統領になれば、こうした政策が大きく見直されることになることが危惧された。
一方、中道の首都ブカレスト市長のダン氏は「EUとの緊密な連携やウクライナ支援の継続」を公約に掲げた。主張が真っ二つに分かれる中、勝利したのはダン氏だった。これまでの政策は継続されることになった。