支持を広げる“欧州の極右” ~熱狂する支持者たちの本音~
いま、ヨーロッパでは多くの国で極右が支持を拡大させている。その中心的な役割を担っているのが、ハンガリーのオルバン首相だ。
6月9日にフランス中部の小さな町で、ヨーロッパ12か国の極右政党の党首らが一堂に会した集会が開かれた(記事冒頭の写真)。現地を取材すると、異様な熱気に包まれていた。集まったのはフランス、ハンガリー、イタリア、ギリシャ、ベルギー、ポーランドなどの極右の党首らで、その中で唯一国家元首を務めているがオルバン首相だ。
6000人の支持者を前にこう訴えた。「ウクライナが戦争に勝つことは不可能だ。戦地での解決策はない。ウクライナは停戦して交渉すべきだ」、「ハンガリーは国境管理を厳重にしていて、移民は受け入れない」。
今回の大規模集会を呼びかけたフランスの極右政党・国民連合のマリーヌ・ルペン氏は「オルバン首相は私たちがすべきことをやっている」と称賛した上で、「無制限で無秩序な移民の受け入れは、ノー、ノー、ノーだ!」と訴えた。演説を聞いた支持者らは、一斉にフランス国旗を振り「マリーヌ、大統領!」と歓声を上げて応えた。

極右政党の多くは、これまでEUに対し移民政策とウクライナ支援の見直しを迫り、支持を広げてきた。なぜ、極右は支持されるのか。支持者らにマイクを向けると、こんな答えが返ってきた。
「治安は悪くなっていて国家が機能していない。変化が必要だと思う。右派に投票したからと言って、問題が増えるわけではない。変化、それも大きな変化が必要で、彼らはそれをもたらすことができると思う」(30代男性)
「移民流入の制限が必要だ。フランス人のことをもっと尊重しないといけない。それだけのことです」(50代男性)
「フランス人はバカではない。左派のように、振る舞う、あるいは行動を起こさない口先だけの人にはもううんざりしている。移民と治安の悪化を制限し、フランスの主権が守られることを期待する」(20代女性)
支持者の多くが口にしたのは、今の政権への批判と極右に対する漠然とした期待だった。
ヨーロッパの極右の中で、最も過激だと言われるドイツの極右政党AfD=ドイツのための選択肢。今年2月に支持者らの集会を取材した。

AfDは移民排斥や反イスラム主義を掲げ、2月に実施されたドイツ総選挙で第2党に躍進した。ナチスの過去を持つドイツでの極右の躍進は衝撃をもって伝えられた。
私たちが選挙直前に取材した集会が開催されたのはドイツ中部のチューリンゲン州。2024年の州議会選挙で戦後初めて極右が第1党になった州だ。現場では、反対派がすぐ横の広場で反対デモを行うなど、にらみ合いが続く中、集会は始まった。
AfD支持者の多くは、いわゆる「庶民層」という印象だった。ここでも、なぜ極右を支持するのか聞いてみた。

「絶対に安全になります。それにもっと年金もよくなります。労働者の税金も下がります」(中年の女性)
「AfDはどの国とも友好関係を持てます。アメリカであろうとロシアであろうと」(別の中年女性)
そして、高齢の男性にどんな政策がドイツ社会を良くするのか尋ねると「これを見ろ!」と選挙公約が書かれた紙を手渡してきた。
集会の参加者に1時間近くインタビューしても、残念ながら明確な答えは返ってこなかった。しかし、ヨーロッパでは、ウクライナ侵攻をきっかけに物価や電気代が上昇し、移民の流入も増加傾向にある中で、既存の政党や政権は対応に手をこまねいている。市民の不満は強まる一方で、「税金を下げる」、「移民の受け入れを制限する」、そんなポピュリスト的な主張が際立つ極右に期待する気持ちが芽生えるのも、どこか分かるような気もする。
鮮明化する社会の分断が今後どうなっていくのか、極右が国のかじ取りを担う時代は来るのか、今後も取材を進めていきたい。
〈執筆者略歴〉
仁熊 邦貴(にくま・くにたか)
2005年にMBS(毎日放送)に入社
大阪府警記者クラブキャップや神戸支局長を務めた後
特集デスク、ニュースデスク、JNN担当デスクなどを歴任
2024年10月からJNNパリ支局長
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。