最高裁で「夫婦同姓は合憲」ただし…
強制的に夫婦同姓となっている現制度について、憲法学では「違憲であるという見解が通説になっている」と寺原さんは説明します。具体的には、憲法13条で保障される人格権(氏名権)、24条1項の婚姻の自由、14条1項の法の下の平等、24条2項がうたう個人の尊厳や両性の本質的平等に反するという見方です。
ただ、2015年と2021年の最高裁の判決では、いずれも「現行の夫婦同姓制度は憲法には違反しない」という結論でした。「ただし、問題がないと言ったわけではなく、『国会できちんと議論をしてください』と国会にボールを投げた状態だ」と解説します。
最高裁の判事の意見のなかには、「同姓にするにしても、きちんと協議の上で選択がある中で自分が選択したんだという自己決定の機会を持たせることは重要だという指摘があった」と寺原さんは付け加えます。
「通称使用の拡大」の限界と、子どもの姓への懸念
「選択的夫婦別姓」導入の代替案には、「通称使用の拡大」という案も挙げられています。これは婚姻時に改姓をしても、旧姓を「通称」として使用できる機会を増やすものです。
これについて寺原さんは「通称“併記”の拡大に過ぎない」と指摘します。「通称を単独で公的な証明書に書いたり、これによって区役所等で手続きができたりするものではありません。戸籍姓がある以上は、それが第一の姓であって、通称は戸籍姓と同じ価値は得られない」と説明します。
「もし単独で通称が使用できるような法案にするということであれば、戸籍姓の意味がなくなってしまうので、そうした法案は与党から出てきていないというのが現状です」
また、近年強調されている「子どもがいずれかの親と氏が異なるとかわいそう」という懸念について、「今でもいろんなパターンで父母両方と同姓でない子どもたちはたくさんいる」と指摘。事実婚の子ども、国際結婚の子ども、再婚の子どもなど、「氏と愛情を結びつけるような言説は、こうした子どもたちの存在を無視した、実態を捉えていない議論だ」と述べています。
また現行法であっても、国際結婚の場合は別姓か同姓かを選ぶことができます。過去の訴訟で、ニューヨークで別姓婚をした日本人夫婦が日本でも婚姻を認めることを求めた際に、「戸籍は受け付けないが、婚姻は有効」という判決が下されています。「日本人同士の別姓夫婦の婚姻は日本でも有効であるにもかかわらず、戸籍だけが追いついていない状態が残っている」と指摘しています。