「選択的夫婦別姓」制度の導入に向けた法案が、28年ぶりに衆議院で審議入りしました。長年導入を求める声が挙がってきましたが、今国会では自民党が法案の提出を見送り、野党3党がそれぞれに法案を提出し1本化できない状況で、実現の見通しは立っていません。
そもそも、選択的夫婦別姓とはどのような制度なのか?現行制度の課題とは?「選択的夫婦別姓」制度に詳しい弁護士の寺原真希子さんに聞きました。
(TBSラジオ「荻上チキ・Session」5月15日放送分より抜粋)
「選択的」夫婦別姓とは何か? 現行制度の問題点
選択的夫婦別姓とは、結婚する際に夫婦をいずれかの氏にするか、それぞれの氏を使い続けるか、選べるようにする制度です。寺原さんは「『選択的』とついているのは、いずれの選択肢もあるということ」と説明します。
現行の民法750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定されています。これを受けて戸籍法74条1号では、婚姻届に夫婦が称する氏を記載することが求められており、これがなければ婚姻届は受理されません。
つまり、どちらかの姓を選ばなければ法律上の婚姻ができないのです。
寺原さんは「現行法の根本的な問題は、氏と婚姻という、人にとっていずれも重大な価値の二者択一を迫ることの不合理性」だと指摘します。
この不合理性から生じる問題は大きく3つあると寺原さんは説明します。
1. 氏名権の侵害
婚姻の際に片方は必ず氏を変えなければならず、「氏は個人の人格の象徴ともいえるので、改姓が不便という話だけではなく、アイデンティティの喪失になっています」。
2. 婚姻自体をできない人々の存在
事実婚を選ぶ人の約半数にあたる、58万人以上が別姓婚を待っているという研究結果があり、現在の状況は婚姻の自由の侵害になっていることが指摘されています。
3. 男女不平等
ほとんどの場合に女性が氏を変えており不利益を被っている状態です。大阪大学の三浦麻子教授の調査(2024年12月)によれば、「婚姻の際に8割の夫婦がどちらの氏にするかの協議すらしていない」状況で、男性の氏を名乗るのが当然であるという男女不平等な価値観が固定化することにつながっています。
「今、夫婦同姓にしている夫婦であっても、もし別姓という選択肢があれば氏を変えたくなかった方もいらっしゃると思います。同姓にする場合でも、きちんと協議をして納得したうえで同姓にしたいという方もいらっしゃると思うんですね」(寺原さん)