国は全国の農地のうち約3分の1で、10年後の担い手が決まっていないと明らかにしました。

熊本も例外ではない中、担い手不足の現状と試行錯誤する生産者を取材しました。

5月、熊本県北の荒尾市です。

ナシの実に袋がけの作業をするのは、この道50年のナシ農家、平島仁美(ひらしま・ひとみ)さん(73)です。

平島農園は夫・廣幸(ひろゆき)さんの祖父の代から約100年続きます。しかし廣幸さんはこの3月に75歳で亡くなり、今は仁美さん1人で担っています。

平島農園 平島仁美さん「樹齢100年の木が何本もあったんですよ。廃園して、木を切った跡です」

最盛期には約7000平方メートルの農地にナシの木が広がっていましたが、廣幸さんが病気になった2年前に約2000平方メートルまで減らしました。1人では管理が難しいためです。

平島農園 平島仁美さん「梨の花がきれいだったのですけどね。白いじゅうたんと言われていて、見渡す限りずっと真っ白でした。きれいだった。そうやって思うと寂しいけれど、仕方がない」

ただ、100年続く農園も後継者がいないため自分の代で閉じることを決めています。

こうした担い手不足は、平島さんだけではありません。

全国1613の市町村は法律に基づき、2025年3月までに「地域計画」を策定しました。この計画は、地域の農業者や関係機関が話し合い、農業の将来について記すものですが、全国の策定結果をまとめると、424万ヘクタールのうち、32.8%で10年後の後継者がいないことが明らかになりました。

計画や県によりますと、熊本県の場合も11万1000ヘクタールの農地のうち、約3割で10年後の担い手が決まっていません。

こうした中でも生産者からは新たな挑戦もうまれています。

5月30日、県南の多良木町ではミニトマトが収穫の最盛期を迎えていました。黙々と枝を切る女性、実は…

マッチングアプリ利用者「『タイミー』に登録していて、隙間時間に行ってみようかな、と思って働きに来ています」
――農業をしたことは?
マッチングアプリ利用者「初めてです」

「タイミー」という人材マッチングアプリのを使って1日だけアルバイトに来ていました。

マッチングアプリ利用者「実が成っているところを切ってしまいました。慣れないからですね」

こちらの男性は、普段は飲食店で働いています。

近隣の人吉市から「肉体労働関係の仕事は苦ではないので。給料も良かったですし、空き時間があったので応募してみようかなと」

この日は午前9時から6時間の作業で5000円ほどの給与を受け取りました。

タイミーを導入した農業法人「多良木のびる」は16年前、後継者の減少に地区単位で対応しようとコメ農家など15軒で設立しました。

後継者のいない農地などを預かり、農作物を作っていますが、高齢化で農業から離れるペースは早く、手が回らなくなりました。

そこで2週間ほど前からタイミーの利用を始めたのです。

多良木のびる 尾方伸一郎専務「1か月分を1日おきに求人を出したが、その日のうちに全部が埋まった。びっくりしました」

反響は予想以上に大きく、生産者はこうした経験が新たに農業を始めるきっかけになってほしいと期待しています。

ただ、こうした方法だけで農業への厳しい見通しが解消できるとは限りません。

今回の国のデータをどう見るべきなのか。

熊本大学 山下裕作教授「農村に暮らすみなさんも、そして農産物を消費する
都市の生活者のみなさんも、今回の結果はショックを受けたと思います。ここからこの3割をどうするのかをみんなで考えるプラットホームとして地域計画が作られた」

農業に詳しい熊本大学の山下教授は「今回、データが示され危機感を共有できた」とした上で、「生産者だけでなく消費者も含めて将来の担い手を考えるきっかけにすべきだ」と指摘しています。