鵜澤が目指すメダリストレベルの前半のスピード

大会5日目(最終日)の男子200mは、鵜澤が20秒12(追い風0.8m)で優勝。1973、75年のアナト・ラタナポール(タイ)以来、この種目50年ぶりの2連覇を達成した。

鵜澤は5月3日の静岡国際優勝時に20秒05(追い風2.1mで参考記録)で走っているが、公認の自己記録は静岡の予選でマークした20秒13(追い風0.8m)。しかしレース直後は自己新という認識を持てなかった。「予選(20秒94。向かい風1.0m)が上手くはまらない嫌なレース、良くないレースをしてしまったので、思ったより疲労がたまってしまいました。決勝のウォーミングアップでは20秒2台か3台かな、と感じていましたね。その状態で20秒1台が出たので、自分の感覚と体の状態がズレているのだと思います。そういうときはケガもしやすいので、日本選手権に向けて直していかないと」

鵜澤飛羽選手

標準記録を突破している鵜澤は、日本選手権で3位以内に入れば世界陸上代表に決まる。日本選手権もそうだが、世界陸上はラウンドを重ねて勝負をする。アジア選手権を予行演習的に活用するはずだったが、予選、準決勝(20秒67、向かい風0.9m)と良い走りができなかった。世界陸上本番では「予選から20秒0台、20秒1台」が必要と想定している。決勝で自己新が出ても、アジア選手権は納得できる結果とは言えなかった。

課題としていた前半からスピードを上げる走りも、アジア選手権ではできなかったという。昨年までは大学1年時(21年)に大きな故障をした影響もあり、前半から思い切ってスピードを上げる走りができなかった。後半のホームストレートは上位選手に匹敵する走りをしても、その走り方では19秒台を出すことや、五輪&世界陸上の準決勝を勝ち抜くことはできなかった。

静岡国際、アジア選手権の前半は、昨年までと比べると速くなっているが、鵜澤が目指すレベルには達していない。「やっぱりはまりが悪くて、足のはまりというか、お腹をはめたいんですけど、技術的な問題もあり速さに体が追いついていないんです。それをもう少し上手くやれば、前半のスピードがもうちょっと上がります。最大スピードが今11.2(m/秒)とか11.1なんですが、11.3が出れば19秒台が出ます。そこを目指して頑張りたい」

2年前のデータを日本陸上競技連盟が公表している。鵜澤のブダペスト世界陸上準決勝の最大速度は10.86m/秒だった(3組5位・20秒33。向かい風0.4m)。最大速度の出現地点は、どの選手も同じで55-80mである。今季の鵜澤のスピードが向上しているのがわかる。後半の減速が大きくなってしまっては記録は出ないが、まずは前半のスピード向上が、世界で戦う前提条件に設定している。

鵜澤が出したいと話した11.3m/秒はどのレベルなのだろうか。ブダペストで銀メダルを獲得したエリヨン・ナイトン(21、米国)は、鵜澤と同じ準決勝3組で11.27m/秒だった(1位、19秒98)。金メダルのノア・ライルズ(27、米国)の準決勝は11.35m/秒(19秒76)である。アジア選手権2連覇を自己新記録で達成したが、走りの内容には満足していない。鵜澤が目指しているのはメダリストレベルのスピードである。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

*写真は左から、栁田大輝選手、鵜澤飛羽選手、村竹ラシッド選手