陸上競技のアジア選手権は5月27~31日に韓国・クミで行われた。日本勢は金メダル5個(男子の100m、200m、1500m、110mハードルと女子400m)を獲得したが、そのうちの3種目は“大台”となる記録が期待されていた。残念ながら実現できなかったが、100mの栁田大輝(21、東洋大4年)は9秒台を、200mの鵜澤飛羽(22、JAL)は19秒台を、110mハードルの村竹ラシッド(23、JAL)は12秒台を、アジア選手権の走りでどう感じたのだろうか。“大台”を実現すれば、栁田と鵜澤は9月の東京2025世界陸上で決勝進出が、村竹はメダル獲得が見えてくる。

栁田は9秒台への感触を「遠からず、近からず」と表現

栁田は大会2日目(5月28日)の男子100mで、日本人ではこの種目初の2連覇を達成した。昨年のU20世界陸上銀メダリストのプーリポン・ブンソーン(19、タイ)に、0.002秒という僅差で勝ちきったことは評価できたが、10秒20(追い風0.6m)とタイムは低調だった。今大会は4日目まで全般的に記録は低調で、湿度や気圧の影響を受けていた可能性がある。日本人5人目の9秒台を出せば同時に、10秒00の世界陸上参加標準記録を突破する。標準記録への距離感を問われた栁田は、「遠からず近からず、みたいな感じです」と答えた。

栁田大輝選手

栁田は5月18日のゴールデングランプリ(以下GGP)で、10秒06(追い風1.1m)と、自己3番目の記録で優勝した。課題としていた部分への手応えもあり、アジア選手権では9秒台も狙っていた。だが4月下旬の日本学生個人選手権(準決勝で10秒09・追い風1.8m)、5月上旬の関東インカレ(優勝、9秒95・追い風4.5mで参考記録)、GGPと連戦した疲れで「体がカスカス。エネルギーが切れていた」という状態だった。

「GGP以上の走りをしたかったのですが、連戦で冬期に積んできたものを全部出し切った感じでした。それでも思った走りからかけ離れてはいなかったので、しっかり休んで練習すれば、今シーズンのこれまで以上の走りができると思っています」良い走りではなかったが、体の状態を考慮したら悪い走りでもない。それが9秒台に対して「遠からず近からず」という感想になっている。

何より、どの試合も勝ちきっていることは、本人も安心できる部分だろう。「記録を狙える試合ではありませんでしたが、(予選・準決勝・決勝と)しっかり3本走って勝てたことは、最低限ですがよかったと思います。少なからず走りの平均値は上がっている。7月上旬の日本選手権までにもう1回上げて行きます」GGPでは9秒台に関して、「今の100点の走りができれば出る」と話していた。見方を変えれば、地力がさらに上がれば100点の走りでなくても9秒台は出る。どちらの形でも9秒台が出たなら、世界陸上での決勝進出の可能性が大きくなる。