■“短命台風”なのに豪雨被害も…原因は?
静岡県を中心に、甚大な被害をもたらした台風15号。
実は「大きい」わけでも「強い」わけでもない台風で、9月23日に発生し、24日に温帯低気圧に変わるという、寿命2日の短命台風でした。

しかし、このたった2日間で、静岡県に記録的な雨量をもたらしました。静岡市では24時間雨量が400ミリを超え、観測史上1位を更新。静岡県全体では、数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨を観測したときなどに発表される「記録的短時間大雨情報」が、11市町にのべ32回発表されました。この豪雨により静岡市では、最大で6万3000戸以上が被災する大規模な断水が発生。すべてが解消したのは、12日後のことでした。
台風15号は、なぜこれほどの雨をもたらしたのでしょうか。
池田 現業統括予報官:
「15号は風の強さはそれほどではなかったのですが、熱帯から北上してくるときに、大量の水蒸気を持ち込んできました。予想よりも多くの水蒸気が流れ込んだのだろうと推測しています。その理由はまだはっきりしないのですが、1つには台風が予想より早く衰弱したことが可能性として考えられます」
ーー衰弱した方が、水蒸気が多く流れ込むんですか?意外です。
池田 現業統括予報官:
「台風がある程度の勢力を保っていると、周辺の湿った空気を台風自体に巻き込んでいきます。しかし、台風が非常に早く衰弱していったので、台風に巻き込むはずだった水蒸気も陸上に流れ込み、陸上の水蒸気量が増えたのではないか、という可能性が考えられます」
台風は、大気中の水蒸気を取り込んで発達していきます。このとき、取り込む水蒸気の量は、台風が発達していると多く、逆に衰弱していると少なくなります。そのため、台風15号は北上とともに水蒸気を持ってきたにもかかわらず、その水蒸気は衰弱した15号自体には取り込まれず、陸上へと流れていった可能性があります。その結果として「衰弱によって陸上の水蒸気量が増える」という、“意外な現象”が起きたことが考えられるのです。
ーーなぜ静岡では記録的な豪雨になったのでしょうか?
池田 現業統括予報官:
「15号は、局地的に雨量が多くなっています。そのときの気温分布を見てみると、台風から湿った暖かい空気が流れ込んでいるにもかかわらず、陸上は気温が上がっていないんです。その気温差で、静岡県の沿岸付近に局地的な前線が形成されたのだろうと考えています。この前線による非常に発達した雨雲が同じような位置に持続したことで、記録的な豪雨につながりました」
雨をもたらす「前線」は、寒気と暖気の境目にできます。今回は、15号の接近前日に静岡県上空付近に流れ込んでいた冷たい空気が陸上に残っているところに、台風の暖かい空気が乗り上げる形になり、静岡県の沿岸で前線を形成しました。これにより非常に発達した雨雲ができ、局地的に記録的な豪雨をもたらしました。