注目される久保のレース展開
アジア選手権では過去、女子800mで1分台の優勝記録は一度もない。勝負優先の展開が当たり前になっている大会で、久保凜(17、東大阪大敬愛高)がどんなレース展開をするかが注目される。
自身の日本記録(1分59秒93)や世界陸上標準記録(1分59秒00)を破ろうと思ったら、自分で速いペースメイクをすることが必要になる。国際大会では難しいことだが、久保ならやってしまうかもしれない。日本人初の1分台を高校2年生で出した選手は、常識にとらわれない。
だがRoad to Tokyo 2025でも現在44位に付けている。出場枠は56人。順位ポイントの高いアジア選手権で確実に上位を取れば、出場資格獲得の可能性は大きくなる。終盤失速するリスクのあるハイペースよりも、1周目はレースの流れに乗る選択をするかもしれない。どちらの展開になっても1周目が58秒台なら、日本記録更新のペースとなる。外国勢のラストスパートは油断できないが、今のアジアのレベルなら1分台を出せば勝つ可能性が高まる。
女子400mの松本奈菜子(28、東邦銀行)は静岡国際で52秒14、100mハードルの田中佑美(26、富士通)はゴールデングランプリ(以下GGP)で12秒81と、ともに日本歴代2位をマークした。松本は昨年も52秒29を出している。日本記録の51秒75も射程圏内だ。
田中はまだ日本記録の12秒69と0.12秒の開きがあるが、12秒8台の回数はGGPが6回目と多い。足首の硬さに頼って地面の反発を受け止めるのでなく、今季から取り組んでいる脚や体全体を使う走り方ができれば、日本記録更新も不可能ではない。
フィールド種目にパリ五輪メダリスト2人
アジアの女子フィールド種目には、世界レベルの種目も多い。昨年のパリ五輪では砲丸投で宋佳媛(27、中国)が銅メダル、円盤投で馮彬(31、中国)が銀メダル、ハンマー投で趙傑(22、中国)が銅メダル、そしてやり投で北口榛花(27、JAL)が金メダルを獲得した。今大会には砲丸投の宋と円盤投の馮が出場する。砲丸投は19m69、円盤投は66m42の大会記録更新が見られるかもしれない。
日本勢では前回、女子走幅跳の秦澄美鈴(28、住友電工 当時シバタ工業)と三段跳の森本麻里子(30、オリコ 当時内田建設AC)、やり投の斉藤真理菜(29、スズキ)がフィールド種目で優勝した。秦と森本は今回も代表入り。大会前の記録は2年前と比べてよくないが、ゲンの良い大会を復調のキッカケとしたい。
三段跳では高島真織子(25、九電工)が、4月の織田記念で追い風参考記録ながら13m96の好記録をマークした。この種目はウズベキスタン、カザフスタン、タイにも14m台の選手がいて混戦だが、今季はまだ誰も14m台を跳んでいない。高島が日本人3人目の14m台を出せば優勝にも手が届く。
女子走高跳の髙橋渚(25、センコー)は今年2月に1m92と、日本選手としては12年ぶりに1m90以上を跳んだ。アジア選手では髙橋だけが、今季大台をクリアしている。アジア選手権でも1m90以上を跳べば、金メダルの可能性がある。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)