“アメリカの患者や保険者が世界で最も高い価格を支払わなければ製薬会社は革新的な新薬を開発できず、その結果わたしたちは皆死んでしまう”というプロパガンダ

高額な薬価が新薬の開発を支えて来たということは間違ってはいないだろうが、別の側面を指摘する専門家もいる。ボストン大学のセイガー教授はアメリカの薬が高いのは製薬会社のロビー活動や大統領選への献金が関係していると指摘する。

『ボストン大学』アラン・セイガー教授
“アメリカの患者や保険者が世界で最も高い価格を支払わなければ製薬会社は革新的な新薬を開発できず、その結果、私たちは皆死んでしまう”というプロパガンダがある。私はそれを“米国研究製薬工業協会(PhRMA)による恐怖の霧”と呼んでいる…」

製薬会社のどのくらいの儲けが開発費に回って新薬が生まれているのかはまさにブラックボックスで、製薬会社にしてみれば、儲かる市場を崩したくない。そこから美味しい思いをしてきた政治家はそこにメスを入れたくない…。説得力はある。であれば、トランプ氏の決断は英断といえよう。ところが、そう簡単な話ではないらしい…。

「この大統領令は奇妙な責任転嫁とも言える」

アメリカで医療政策を専門に扱うキム弁護士は、この大統領令は薬価高騰の責任を他国に押し付けようとしているのだと語る。

ポール・キム弁護士
「(トランプ氏が)自国のヘルスケア市場に関して他国に責任を持つように言ったり製薬メーカーが単にアメリカ市場に合わせた活動をしていることを非難し、それを“世界のただ乗り”と呼んだりするのは非常におかしなことだ。本来なら大統領や議会に責任があり彼らは価格統制の措置を講じることができたにもかかわらずしなかったのだ。この大統領令は奇妙な責任転嫁とも言える…」

日本は厚労省が薬価を決める。それは毎年見直され特定の条件がなければ引き下げられたり据え置きになったりする。さらに保険がきけば国民の負担は小さい。一方、アメリカは国が介在しない自由競争。ニーズのある薬が高額になることは当然といえば当然だ。薬価を下げるのならばそういう政策を国内で作るしかないという。

国際医療福祉大学 松本哲哉 主任教授
「日本みたいに処方される医薬品の価格を国が徹底的に決めているのは珍しい。ただ国がある程度管理して抑えているのは欧州など多くの国。あくまで自由というアメリカは極端すぎる…」