トランプ大統領が決断した、アメリカの医薬品の大幅引き下げ。これによって日本でも治るはずの病気が治らなくなるかもしれないという。“風が吹けば桶屋が云々…”的な飛躍に聞こえるが、一体何が起きようとしているのか読み解いた。

「開発費をかけなくなる結果、今のように新薬の開発できなくなる」

トランプ氏が“世界を驚かせる”と前置きした米国薬価の大幅引き下げに関する大統領令。

確かにインスリンを例に取ると日本やドイツが3ドルちょっとであるのに対してアメリカでは約23ドル、7倍以上と圧倒的に高い。とは言えアメリカ国内の薬価が引き下げられることが何故“世界を驚かせる”のか…?

それは医薬品市場の現状にある…。アメリカの人口は世界の4%ほどだが、こと医薬品に限って市場を見ると世界の40%をアメリカが占めている。その経済的規模は100兆円市場だ。つまり、世界の医薬品業界が利益を上げる「中心」が急激に規模を縮小する…。それによって世界が影響を受けないわけがないのだ。

アメリカで“神の手を持つ”と称賛される日本人医師に話を聞いた。彼はアメリカの薬価が高すぎるのは事実でこれを是正するのは大賛成とした上で、懸念される弊害を語った。

『コロンビア大学附属病院』加藤友則 医師
「(アメリカでは高額な薬価によって製薬会社が)儲かることで開発費がつぎ込める。引き下げられることで製薬会社がアメリカでの薬を売り渋る、ないしは開発費をかけなくなる結果今のように新薬の開発できなくなる。(トランプ氏が大学の研究費を削った上に)製薬会社のお金も削られる可能性がある。そういう恐怖はある。さらに(製薬会社が生産コストの安い海外に開発拠点を移せば)アメリカが世界に先駆けて新薬の恩恵を受けるといった可能性が少なくなる可能性があるかも知れない…」

医薬品の世界では、アメリカの高額薬価によってアメリカの製薬会社が儲かり、その儲けによって新薬が生まれ、治らなかった病気が世界で治るようになる…という構図があった。 

つまり、アメリカの高い薬代で世界の人が恩恵を受けている…。これがトランプ氏の言う“世界のただ乗り”ではあった。

日本の製薬会社もアメリカで作り、承認を受け、アメリカで高く売ってきた。例えば、最大手の武田薬品工業は、売り上げ全体の52%をアメリカでの売り上げが占める。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤信輔氏
「武田薬品工業は“あそこはアメリカの会社ですよ”って言われる。確かに役員の名簿を見てみると、17人いる役員の中で日本人は何人いると思います?…5人しかいない。アメリカ人フランス人の経営陣が並んでいて、最近は研究開発拠点もボストン近郊に置いて…」

これが、薬価引き下げとなれば製薬会社は大打撃だ。