数々の話題作で音楽を手掛けてきた作曲家・木村秀彬氏。早稲田大学政治経済学部入学後、独学で作曲を始め、卒業後は音楽理論・編曲を学ぶため米国・バークリー音楽大学へ留学という異色の経歴を持つ。映画『トリリオンゲーム』やNetflixドラマ『極悪女王』、Webアニメ『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』など、ジャンルを問わず幅広く劇伴(劇中伴奏音楽の略。映像作品における背景音楽)を手掛けてきた。

情感をすくい上げる繊細なスコアと、シーンに寄り添う構成力を持ち味に、映像と音の接点を探り続けてきた木村氏が、今回挑むのは日曜劇場『キャスター』(TBS系)。報道の倫理とリアルを描く本作に、「説得力のある音楽」でどう寄り添うのか。感情をあえて煽らず“俯瞰する音”で物語を支えるアプローチの裏側を聞いた。

「日曜劇場らしさ」と「新しさ」の狭間で

日曜劇場『キャスター』より

日曜劇場ではおなじみの作曲家でもある木村氏だが、“常連”だからこその葛藤があるという。

「日曜劇場は何作も担当させていただきましたが、毎回悩みますね。同じようになってはいけないけれど、日曜劇場らしさ、というものもあると思うので。今回は“報道”というテーマなので主観が入りすぎない、中立的なイメージで作り出しました」

『ドラゴン桜』では「主人公や生徒の気持ちを汲んでメロディーに乗せた」という木村氏だが、『キャスター』の劇伴については「俯瞰して見ているような音」と表現する。

「今まで『グランメゾン東京』や『ブラックペアン』など、天才肌の主人公が出てくる作品では、その才能が発揮される“見せ場”があって、音楽もそれを輝かせるようなテーマ曲を意識して作っていました。葛藤や天才性を支え、より魅力的に映るような立ち位置の音が多かったと思います」

日曜劇場『キャスター』より

だが『キャスター』では、そのアプローチを大きく変えた。

「主人公のキャスター・進藤壮一は、天才とはちょっと違うと感じまして。報道に信念を持って全力で仕事に取り組んでいる人物だけど、彼の“かっこよさ”を音で煽るようなことはあまりしたくなかったです。だから音も、いつもより引いています。いつもなら“全力でホームランを狙いに行く”ような感じで作るところを、今回は“押し付けがましくならないように”。音楽としても客観性を保つことを意識しました」