「自分はいらない存在」人を信頼できない少年
2024年の春に収容されたA少年。大麻と道路交通法違反で捕まった彼は、強い自殺願望を抱いていた。

A少年(19)
「自分が生きている意味を正直わかってない。この世にいらない存在だと思っている」
幼い頃、両親が離婚。母親に引き取られたが、その母親から度々虐待を受けていたという。
A少年(19)
「夜になると頬っぺたつねられて、そのまま廊下に引きずられて、ベランダや玄関の外に投げられて」
母親による養育が困難だったため、小学校に入ると、祖父母のもとで暮らし始めた。だが、親のいない寂しさから非行に走るようになった。

A少年(19)大麻・道交法違反
「今、違う自分を出している。本来の僕は自殺未遂しちゃうので。首吊り、そういうのばかり考えているので。僕は死にたい願望がとても強い」
そんな少年を入院当初から見ている担任の江藤法務教官。戦争をテーマにした課題でA少年が実際に描いた絵を見せてくれた。

江藤法務教官
「首がない。血だらけ。実は2、3回見ていて。過去の話を考えるとリンクせざるを得ない」
日誌にもこんな言葉を綴っていた。

A少年の日誌
「今少し助けていただきたいです。精神的にいっちゃいそうに」
この日、江藤教官はA少年を近くの渓流に連れ出した。高原寮では、少年たちがより心を開けるように屋外でのプログラムを積極的に行っている。
神社でお参りを済ませたあと、向かったのは近くにある温泉旅館。少年との信頼関係をさらに深めるため、民間の施設と連携して「温泉カウンセリング」を定期的に行っている。

A少年(19)
「僕もどの自分が本当に自分か、未だにわかっているわけじゃない」
江藤法務教官
「今、先生と話してるのは本当の自分じゃなさそう?」
A少年(19)
「本当の自分だと思ってはいる」
江藤法務教官
「社会で見せてる自分があることが悪いとは思わない。ただ心配なのは見せていない自分。死にたい、人を殺したいと言う時もある。それもたぶん自分なんだよ」
A少年(19)
「どうしよう」
自分のことがわからないというA少年。カウンセリングを受けるうちに、少しずつ本音を語り始めた。
A少年(19)
「人を信頼する本来の意味がよくわからない」
江藤法務教官
「そもそも信頼って何なの?」
A少年(19)
「その人を信じて、その人に自分のすべてを見せること」
江藤法務教官
「少なからず高原寮ではそれができているかな?」

A少年(19)
「人を信じられてない」
江藤法務教官
「先生を100%信じられてない?」
A少年(19)
「人間を信頼できない」
こうした少年たちには、粘り強く話を聞くことが大事だと江藤教官は考えている。

江藤法務教官
「職員の服を着ていれば先生と言われるので、どうしても一線を引かれる。途中からこの人の言うこと聞いてたら、何とかうまくいったなとか、そのようになっていって、やっと初めて信頼される」