世界陸上参加標準記録は27分00秒00「26分台が明確な目標」と鈴木

鈴木は佐久長聖高、駒澤大と駅伝の強豪校で大活躍した。佐久長聖高では1年時に全国高校駅伝優勝。駒澤大では1年時と3年時に箱根駅伝に、3〜4年時には出雲全日本大学選抜駅伝に、1年時と4年時には全日本大学駅伝に優勝した。

しかし学生時代には大きな故障も経験した。大学2年時の9月に右大腿骨を疲労骨折。箱根駅伝は8区を走ったが区間18位。左大腿骨の疲労骨折をしていた。

「大学時代はケガでチームに迷惑をかけたので、とにかく学生3大駅伝で恩返しをしたい思いが強かったですね。日本選手権や、その先の世界に目を向けにくいところもありました」

しかし大学2年時に、日本選手権10000mで3位(27分41秒68)に入ったことが大きかった。大学、実業団を通して1学年先輩となる田澤廉(24、トヨタ自動車)が2位。田澤に必死で食い下がった結果ではあったが、「自分の中で世界の舞台に立ちたい思いが芽生えた」という。

大八木弘明総監督が、世界と戦うために立ち上げたGgoatに加わり、練習のレベルと意識が高くなった。そして24年にトヨタ自動車に入社。「社会人になって、そういう部分(学生3大駅伝)がなくなったので、自分の結果を追い求めていくことで、この1年間でだんだん強くなることができました」

ニューイヤー駅伝前の取材では次のように話していた。

「学生時代より駅伝の数が減り、年間を通してトラックの試合1本1本に集中できるようになりました。試合に出たらしっかり休んでまた、次の目標に向けて練習期間をしっかりとる。そのサイクルが上手く回り始めました。練習メニューは学生時代と大きく変わっていませんが、質的に少し上がっています。故障をしなくなっていることも大きい」

ニューイヤー駅伝は最長区間の2区で区間2位。池田耀平(26、Kao)には敗れたが、日本のトップを争う力はついていた。ニューイヤー駅伝後も一度しっかり休み、そこから練習のレベルを上げてきた。

10000mの日本記録は27分09秒80で、東京2025世界陸上参加標準記録は27分00秒00だが、鈴木は「26分台が明確な目標になっている」と言う。

「27分20秒33(24年八王子ロングディスタンス)がベストの選手が言うのは生意気かもしれませんが、チャレンジする力は付いてきていますし、その自信もだんだん大きくなってきています」

大学時代に日本トップレベルの戦いを経験し、学生駅伝で鍛えられ、卒業後に自身のスタイルを確立させて世界を目指す。鈴木に日本人初26分台の可能性を感じさせた日本選手権だった。

出場資格選手ランキングでは葛西が日本人トップ

葛西は日本選手権前の練習が、「2月、3月とまったくダメだった」ことで、昨年のように自身から仕掛けるレース展開ができなかった。

「自分が去年仕掛けたタイミング(残り1000m)で行かれてしまいました。僕が仕掛けるか、芽吹が仕掛けるか、少し予想はしていましたが、わかっていても反応する余力がありませんでした。芽吹が一枚上手だったかな、と思います。練習の状態からロングスパートはできないと思っていたので、仕掛けられたときにどう対応するか、だと思っていました。練習のままでしたね」

2位になったことでアジア選手権代表の可能性はあるが、「連覇したい気持ちがあったので、悔しさの方が大きいです」。

しかしRoad to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)では、前回の優勝と今回の合計得点で、葛西が日本勢最上位にランクされている。葛西は10000mの東京2025世界陸上出場選手枠の27人に入っているが、鈴木はアジア選手権などで上積みが必要だ。

昨年の葛西はRoad to Paris 2024の出場人数枠に入るために、日本選手権2週間後にロンドンの大会に遠征。27分34秒14で走りパリ五輪出場資格を得た。しかし今回のようにパリ五輪前の練習が十分にできず、本番は20位(27分53秒18)に終わった。

今年は代表に決まれば1か月半後にアジア選手権があり、そこで好成績を残せば世界陸上出場資格を得られる。

「試合スケジュール的には昨年よりも余裕がありますが、今日負けてしまったので、気を引き締めないといけない」

年間最大目標の試合に向けて葛西は、昨年よりも良い流れに乗ることができるかもしれない。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)