かつてない距離を走った冬期練習
廣中は21、22、23年と日本選手権10000mに3連勝し、東京五輪、オレゴン世界陸上、ブダペスト世界陸上と3年連続日本代表入り。東京五輪とブダペストでは7位に入賞し、オレゴンでは30分39秒71の日本歴代2位をマークした。
しかし昨年は1~6月までが右ヒザの痛みで、7~8月は仙骨の疲労骨折で走れなかった。
11月のクイーンズ駅伝が24年初レースで、3区で区間2位。昨年の日本選手権10000m優勝者の五島莉乃(27、資生堂)に16秒差をつけられた。12月のエディオン・ディスタンスチャレンジ10000mは32分29秒74の6位、今年1月の全国都道府県対抗女子駅伝9区は区間4位と、状態は上がらなかった。
今大会は3カ月ぶりの試合出場だったが、故障明けの3レースとは明らかに違った。
「冬場の寒い時期になると足首の動きが悪くなったりして、昨年はヒザでしたが、足首回りを故障することが多かったんです。今年はホットジェルを使うなど足首回りが冷えない対策をしっかり行い、順調に練習ができました。2月はしっかり距離を踏み、3月にかけては距離も踏みながらスピードへの移行も練習できました」
髙橋監督によれば2月も3月も800km弱を走ったという(2月は30日換算)。以前よりも200km弱多かった。
世界への課題は「スピードのギアをスムーズに上げる」こと
世界陸上の出場資格は「標準記録(30分20秒00)を切って得たい気持ちはある」と廣中は言う。だが10000mは出場レースが限られることもあり、世界ランキングで資格を得ることも考える必要がある。世界ランキングのポイントが高いのがアジア選手権だ。その選考競技会である日本選手権優勝者は、選考基準の最上位項目。廣中がアジア選手権の代表に選ばれることは確実だ。
「アジア選手権でも自分らしい走りをしっかりして、ポイントを確実に取るためにも必ず優勝したい」
東京2025世界陸上代表に入る確率も高くなったが、日本選手権の走りでは、まだまだ世界に通用しないと言う。
「スタミナとスピード持久力は確認できたのですが、スピードのギアを上げることがスムーズにできませんでした。世界では全然戦えないとわかっています。でもそれがわかるのは、以前の経験があるからこそ。その経験と現状を照らし合わせ、どこが改善できるかを監督とも話していきます」
今回ラスト1000mは2分57秒で、東京五輪とオレゴン世界陸上よりは速いが、ブダペスト世界陸上の2分53秒26とは差があった。
それでも髙橋監督は、「今の状態で2分57秒ならまあまあです」と評価している。スピード練習自体が、ブダペストの頃のタイムではできていないからだ。「東京五輪やブダペストを“10”とするなら、まだ“7”くらいですね」と髙橋監督。裏を返せば十二分にノビシロがある。
廣中にとって世界陸上が東京で開催されることも、重要なポイントになる。東京五輪は無観客で行われ「自国開催で嬉しい面と、本当にオリンピックなんだろうか、という感じ方もして、さまざまな思いがありました」という印象だった。
廣中は今回の日本選手権のように、家族や友人の応援があると気持ちの面が充実する。トレーニング面でもメンタル面でも、9月の東京で廣中が快走する要素が増え始めた。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

















