「トランプ大統領が『この命令によって民主党支持者の投票を抑制できる』と信じているとすれば、それは民主主義にとって深刻な問題だ」
選挙に絶対負けたくないトランプ氏が手をつけた“憲法違反”かもしれないことがある。ある大統領令への署名だ。それは“選挙の有権者登録に市民権の証明書類の提示を義務付ける”というものだ。戸籍が整備された日本では理解しにくいが、この“市民権の証明”というのがアメリカでは決して簡単ではない人が少なくないらしい。米選挙監視団体の訴訟部門担当者に話を聞いた。

『キャンペーン・リーガル・センター』ブレント・ファーガソン氏
「パスポートを持っているのはアメリカ人の半分で、残りの半分は容易に取得できない人たちだ。今回の大統領令ではほかの書類(出生証明書など)も市民権の証明として認められる可能性がある。但しその基準があいまいなのだ…(中略)本質的には(パスポートを持っていない人が多い)民主党支持者が投票しづらくなるようにするものだ。トランプ大統領が『この命令によって民主党支持者の投票を抑制できる』と信じているとすれば、それは民主主義にとって深刻な問題だ」
市民権の証明書類をすぐに用意できない人は有権者の9%(約2000万人)に上るという。
トランプ氏の言い分はこうだ。
「この国は偽の投票や不正な選挙のせいでとても病んでいる」
確かに不法移民など本来投票権を持たないものが不正に投票した事例はあるが、選挙結果が変わるほどの数ではない。
この事態についてかつて日本外国特派員協会の会長を務めたジャーナリスト、ジェームズ・シムズ氏は言う…。

ジャーナリスト ジェームズ・シムズ氏
「私はパスポートを提示して投票してます。大昔は電気料金の請求書を見せて住んでることが証明できればよかった…(中略)これは有色人種特に黒人の票を抑えたい。黒人はほとんどが民主党に入れますから、それを抑えたい。…例えば黒人は病院で生まれていない場合がある。その場合出生証明書はない。これは人種に対する劣悪な政策です。投票権を奪いたいという…」
同志社大学の三牧聖子教授は、不正選挙はなくすべきなのでトランプ氏の言い分は正しいと言いつつ、この大統領令は本質的には権力闘争だと話す。

同志社大学 三牧聖子教授
「女性の間でも姓が変わった場合どうなるんだ(出生証明書と)IDが違うとか…。7000万人ほどが姓を変えている。この法律では、許可を出した側の罰則も重いんです。なので管理する側もちょっとでも怪しい場合はダメにしちゃう。実際に共和党が握っている選挙区では投票箱の数を減らすとかドライブスルーをなくすとか…」
つまり生活に余裕のある共和党支持者には関係ないが、投票所が遠くなれば投票に行けない人が民主党支持者には多くいるということらしい。
番組のニュース解説、堤氏は証明書類が免許証なのか出生証明なのか何なのかを明確化していないことが問題だと指摘する。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「明確化しないということは現場の恣意的な運用を認めてしまう。例えば投票所にいる人がどちらかの党の支持者であれば、非常に恣意的運用が偏ってしまう。だから非常に差別的…」