伝説のクロンカイトに学ぶ

 それでアメリカに行って勉強して来いということを、今道社長※が許して下さってね。

※今道潤三(1900~1979) 

CBSを訪ねて、当時のクロンカイト※がやっていた、イブニングニュース、あそこに一日いました。

※ ウォルター・クロンカイト(1916〜2009)CBSの看板番組「イブニングニュース」のアンカーマンを長年にわたり務め、「アメリカの良心」とも評された。

大山 それは「ニュースコープ」が始まったあと?

 始まってからです。お休みをちょっと頂いて。これはとってもいい勉強になりました。たとえば、クロンカイトさんもやっぱりちゃんと昼頃やって来て、自分で全部のニュースに目を通す。で、向こうの場合はさっきの紙芝居方式が自動的にやれる機械を作ってるわけです。今でいうオートプロンプターですね。それがレンズの下に取り付けてあって、そこにタイプで打った原稿がずーっと流れて出てくるんです。その点が一つ、非常に参考になりました。

あと、ちょうどベトナム戦争の最中ですから、そのニュースが非常に大きく扱われる。クロンカイトさんは、例えば北爆が始まったなんていうと、そのニュースを淡々としゃべって「今、この時期に北爆を再開したことをどう考えたらいいか、わが社のニュースコメンテーターに聞いてみましょう」と言うと、パッとエリック・サブライトというコメンテーターが出てきて「この時期にまた戦争を拡大することは良くない」っていうようなことを、ズバッと政府批判をやるんですね。

クロンカイトさんは大変人気のある知名度の高い人なのに、ニュースキャスターとしては、今はアンカーっていうんですか、絶対に意見を言わないんです。意見はサブライトっていう人が言う。この人も新聞記者出身だったようですけど、そこを峻別してることが非常に大きな勉強になりました。私は、一つの人格の中でニュースを伝えると同時に、最後にちょっと意見を言ったりしてましたからね。

大山 じゃあ、クロンカイトと会って、お帰りになったあとは、少しスタイルを変えて?

 そうですね。まず一つは機械。向こうはこういう機械を使ってやってますよと言ったら、社内の専門家がたちまち作ってくれて、さすがですね。で、出来てきたのが、自動的に紙が巻かれて頭からそれを見ながらやれるという機械。今は、もっと発展してるでしょうが、草創期でしたからね。まだ白黒でしたし。

大山 ニュースを読む人と、意見を述べる人を分けるという部分は、日本ではどうでしたか。

 これはね、もっと早く実現というか、TBSがそれをやるべきだったと思うんです。私自身もその区別が非常に重要な意味を持つことに気付いたのは、後々になって、結局ニュースコープを辞めなけりゃならないという、そういう状況に直面した時でしたね。意見を言う人とニュースを伝える人が同一人物であっちゃいけない、これは、その後政治の世界に入ってなおさら思ったんです。

どういう国であれ権力、政権を握ってる人は、自分たちの言いなりになるジャーナリズムが一番好ましいと考える。これは原則みたいなもんだと思いますね。いけないことだけれど。

だから、それに対してジャーナリズムは圧力を受けた時に、ちゃんと対応できる手法、やり方を考えてなくちゃいけない、それを痛感しました。反省してみると、申し上げたように一人がニュースと意見の両方をごちゃ混ぜにしてしまっていた。

新聞の場合だと、ストレートニュースがある一方、署名入りの記事ならその人の見解が入っていることが、その署名で示される。社説はその社の意見ですと謳ってるし、コラムなんかは、それを書いた人の意見が入ってることはみんな分かってる。それに対し、ストレートニュースの方には一切意見は入っていないという区別がはっきりしてるけど、テレビはそこがはっきりしてなかった。その点を権力から突かれると防衛能力が低いんじゃないかと思いましたね。