行政の当時の対応をめぐって

複数の住民に聞く。
何十年も、男と同じ町で生きてきた住民たちだ。

「様子を見に来た区の職員に、『本人を自立させる。自立の妨げになるから、一切手を貸すな』と言われた」

「いま『あの人』が1人で暮らすのは絶対無理だと訴えても、『とにかく一切関わるな』と言われた」

「『自殺する』って繰り返していると、事の緊急性を行政に報告しても、『あなたたちは気にしないでいい』『刃物を持ってきたら逃げて』と言われた」

心配は増す一方だった。

男がフラフラ外を歩く時は、気づかれないように、そっと様子を見守ったという。

洗濯はできているのか。ずっと竿に何も干されていない…。夜、電気は付くのか。あっ。付いた。生きてるね。

行政に、被告は元気なのかと尋ねると
『風呂は、お水を浴びているみたいですよ』
え、それでいいのかしら…。

1人ではとても無理と分かっている人を、行政は、なんで、自立させようとするのだろう。

「小さい田舎って、みんなで助け合って生きているよ。そのつながりを強制的に切られたような…ご飯が作れないのなら、おかずだって余分に作ってあげたいよ」

住民たちは田舎の助け合いと、行政からの指示のはざまで、苦しんでいた。

浜松市天竜区長寿保険課の担当職員らに聞く。

「本人は非常に耳が遠くて。十分にコミュニケーションをとるのが難しい事情がある中で、この先、彼をどうするのかという調整を、まさにしようとしていたところで、火事が起きた。その5日後くらいに、(男の)ご家族と今後について話をする予定だった」

行政は、9月から週に2、3回ほどのペースで男の自宅を訪ね、筆談で様子を確認していたという。

「(男のことは)強制的に入院になるような対象ではないと見ていた」
「自分の意思で歩いたり食べたりができる方なので…、緊急性というと、衰弱してとかはなかったので。ただ、行き詰まりはもちろんあったので、どうしようかという段階だった」

行政も、男自身の意思と、家族の意向のはざまにいた。