「挑戦することからしか始まらない」。人生最後の挑戦は…

――続いてお話していただくテーマですが、片山さん、次は何番ですか。

片山右京氏:
はい。4番の「質の高い教育をみんなに」っていうことで。

――片山さんの提言をお願いします。

片山右京氏:
「後ろには戻れないから前を見て頑張ろう」って。残念ないろんなことが起こるけど、後ろには戻れないから、そこでちゃんと反省したり線を引いて前に進んで努力をしていくっていうことをいろんな経験とか体験をしてもらって、子どもたちに伝えたいなってことですね。

片山氏が2009年から続けているのが、子どもたちのためのチャレンジスクール。子どもたちは山登り、ロッククライミング、ラン、自転車、キャンプなど様々なことに挑戦する。この活動を通して、片山氏が伝えたいこととは。

片山右京氏:
例えば、フリークライミングとかちゃんとロープをつけて安全にやるんですけど、最近はキレちゃう子がいるんですね。途中で止まっちゃって。「どうした?頑張れ」って言ったら、「下りる」って。「もうちょっとじゃないか」って言ったら、「下りるって言ってんだろ!」とかってなる。

下でご両親とかも「下ろしてあげてください」って。「お前な、そうやって生きてきたか。右京さんな、絶対下ろさないから。はい、右手を上げて。頑張って、勇気持って足上げてみて」って言って、絶対下ろさないから諦めて向こうもやるわけです。上に着くんですよ。

大事なのは「お前は自分の力で登ったんだってことを覚えとけ」って、できるってことを伝えてあげることなんです。親は迷惑そうな顔をしてるけど、しばらくすると、「あれから変わりました」となるんですよ。だから、ブレーキをかけてるのは親だったり。親子で山登りしたりすると、大体朝は親が「お腹減ってないか、寒くないか」ってやってるんですけど、夕方になると、親がボロボロで、子どもの方が体重軽いし元気で。

僕たちが勉強させてもらったのは、子どもは大人を大好きなんですよ。だから、かっこつけて、ルールを守れとか、口だけで言うより、一緒にチャレンジして一緒に失敗している姿を見せる方がよっぽどいい教育にもなるし、オーバーですけど、ひいては健全な社会を作っていくためになるんです。もっと子どもたちも大人もチャレンジしていろんなことやってみたら、何か見つけられるかもしれないし。富士山登ったことありますか。

――ないです。

片山右京氏:

フルマラソンやったことありますか。

――ないです。

片山右京氏:

そんなことやる必要ないじゃないですか。だけどね、人間だけには達成感とかそういうのがあるから、やっぱり苦しいこととかをやる。

失恋したこと、大学落ちたこと、会社が潰れたりしたこと、親との別れ。そういうことってしみ込んで持ってる財産だから、3日間の筋肉痛と引き換えにやったことは、言葉を変え、向き合い方も変えるし、大事なんで。

「できるかできないかなんて関係ない」「とにかくチャレンジするんだ」「すべては挑戦することからしか始まらない」みたいに言ってくれる大人たちがもっといないと子どもたちがかわいそうですよね。

――挑戦とかチャレンジという言葉が、ある意味軽く使う言葉の一つになっています。

片山右京氏:

真剣に言いつつ精神論ばっかりでやると、なんかストレスがかかるから、結果より大切なものがあるんで。仮に夢を見て挑戦して、10年後に自分が立っている場所が思ってた場所と違ったとしたって、やってきた時間とかそういったものが自分を作ってる。その中で、ちゃんと恩返しをして、社会貢献とかもしてると、それが自分が道を外さない最大の理由になっていることに気がつくときが来ますからね。

――山の事故で仲間を亡くされたこともありました。

片山右京氏:

正直何か月も本当に泣き伏して一歩も出られなくて。僕を助けてくれたのは、嘘でもいつわりでもない、会ったこともない人たちで、まるで映画とかみたいに家にトラックが来て、ダンボールで手紙がいっぱい着いて、メールとかは何万通って来て、「早く元気になってくださいね」「F1の解説楽しみにしてますよ」とかって励ましてもらって。人間って性善説だなって。

そうやって助けてもらって、僕もだからこそ命も時間も戻らないから、そこはひどい人間だけど全て置き去りにして残ってる時間を死ぬまで、逆に死んだとしても恩返し、いろいろ罪滅ぼしできるように。命とか費やす時間っていうのは、タイムマシンなんてのはないんで戻ることはできないから、何かあっても前に向かって努力するしかないんで、そこはもう、愛と懺悔の日々です。

家族とも子どもたちとも今でもちゃんとお父さんの話をして一緒に山に登ったりしてますし、僕はもう1回最後の挑戦は、自分のためにやりたいたった一度の一生なんで、どこにそれを置くかって言ったら、やっぱり山なんで。ツール・ド・フランスが終わったら、もう1回1人で高みを目指して、無酸素で1人でいろんな山に登りたいです。

――これまでのご自身のお話を振り返っていかがですか。

片山右京氏:
今も苦しいし、いろんなことと向き合って当然ですけれども、人が生きてればあるんで。苦しんでるのは生きてるからこそ起きるんで、それを楽しみに変えて新しい価値観を入れて余白を埋めたいです。

(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2025年3月16日放送より)