SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は元F1ドライバーの片山右京氏。1992年から6年連続でF1に参戦。日本人最多の95戦に出場し、怖いもの知らずの走りで決勝5位入賞を果たすなど活躍した。引退後は登山家としてキリマンジャロやマッキンリーなどに挑み、7大陸中6大陸の最高峰を制覇。自転車競技選手としても数々のレースに参戦した。現在は自転車の競技者を育成し、日本チームとして初のツール・ド・フランス出場を目指している。日常における環境に優しい自転車文化の普及にも取り組むほか、子どもたちに挑戦することを教える「片山右京チャレンジスクール」を15年以上続けている片山右京氏に、2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。

自転車をもっと楽しく。レーサー時代はロッキーみたいに徹底的に

――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題し、話していただくテーマをSDGs17の項目の中から選んでいただいています。片山さん、まずは何番でしょうか。

片山右京氏:
はい、3番の「すべての人に健康と福祉を」をお願いします。

――この実現に向けた提言をお願いします。

片山右京氏:
はい。「もっと楽しく正しい自転車社会を」。

――今日は自転車のお話をたくさんしていただけると。とはいえ、元F1ドライバーの片山さんですから、そのあたりのお話からお聞きしたいなと。

片山右京氏:

17歳のときにテレビとかでF1を見て、かっこいいと思って、学校の先生に「俺F1レーサーになりたい」って言ったら、「アホか、お前は。テレビの中の世界やぞ」と言われて、だけどどうしても好きでなりたくて、そっちを目指してたくさんの人に応援してもらったりサポートしてもらってっていうちょっと変わり種なんです。

――好きでなりたかったF1ドライバーにどうやってなったのですか。

片山右京氏:

最初にみんな夢を見たとしてもなれないっていうか、ぶつかる壁があるじゃないですか。お金なんですよ。僕がレースを始めたときも、車を買ってサーキットを走ってっていうと1500万から2000万、今だったら多分5、6000万かかるんです。

まず何ができるかな、免許取りに行こうって。サーキットに行く交通費がないんで、サーキットに住んじゃえばいいって。サーキットに住めばお給料もらえて、技術を教えてもらって。

働き出したら、廃棄されたものを使えるようにして販売したり、そんなことをやってると見ててくれる人もいて。苦労してるように見えるんですよ、好きなことやってるから苦労じゃないですけど、助けてもらったり。だから、お金がないからじゃなくて、物をどう準備するかとか、そういう考え方ができたんですね。

例えば練習でサーキットで1回走ったら、頭ん中で体に染み込ませるのは同じじゃないですか。F1ドライバーになってからも一緒なんですけど、ずっと一日中イメージで体に染み込ませて毎日走っていました。物理的に心拍数が180近い中で2時間走らなといけないから、そのための運動をしたり、必要なものを徹底的にロッキーみたいに。

――世界に出て行って感じたことは?

片山右京氏:

アイルトン・セナが死んだときも後ろを走っていて、そういう非現実的なことが起きるんだっていう、不条理と思うようなこともあるし、シューマッハみたいな。やっぱり2人とも天才で、そこは「もしかしたら俺かなわねえかな」なんて思った瞬間に終わったんですけど、次の2位争いをして、結局5位にしかなれなかったけど、そこまでは凡人でもいけるっていうか、努力すれば。でも、天才がいるんだっていうね。

――天才ってどこが違うんですか。

片山右京氏:

反射神経とか動体視力とか、そういったものが負けてるかっていうと、スポーツの世界でフィジカルの差はないんで、最後に何が違ったんだろうって今思うと、情熱かなっていう。

本当に僕は命をかけてなかったなっていうのが。一つ守ると2位になるし、二つ考えた瞬間に3位に落ちるから、もっともっと突き抜けて、若いときのまま調子に乗って走り続けていく人生を送ってもよかったなって。ちょっと利口になった瞬間に、つまらない大人になりましたね。

片山右京氏が提言に掲げる「もっと楽しく正しい自転車社会を」には、どんな思いが込められているのだろうか。

――日本の現状をどのように見ていらっしゃいますか。

片山右京氏:

今はモビリティ(移動手段)として環境にいい、健康にいいっていうことで、2030年までに自転車をマイクロモビリティ(短距離の移動手段)として取り入れようっていうのが世界中で進んでるんですね。

ただし、残念なんですけど、日本だけが信号を守らない悪者的な。ルールが急に変わったらどう走っていいかわかんないし、ぶつかると高額賠償とか。今やっと少しずつブルーの線を引いて、道路交通法が変わって。

パリのオリンピックのときにも道が狭くてそんなもん作れないって言われたのに、7キロしかなかった自転車道を1年間で408キロにして、今行ったらびっくりしますけど、パリのど真ん中に自転車の専用道があって、追い抜き車線もあったり。

そうやって世界中は排気ガスを出さなくて、ガソリン食わなくて、環境にいい、健康に良い自転車がモビリティの中心になってるんですけど、もっともっとしまなみ海道とか東京でもレインボーブリッジを止めてやる自転車のイベントとかってなっていくと、日本もちょっとずつ良くなっていくのになって。

――私も近所だったら電動自転車で行きますが、道幅が特に都内は狭くて、やっぱり怖いですね。

片山右京氏:

それも流行らない大きな理由だと思います。電動アシストにお子さん乗っけて幼稚園に連れて行こうとか、お父さんたちだって駅まで便利だから乗るんですけど、車に乗ってると僕は自転車の人はたまにルール守らないから邪魔だなと思うし、自転車に乗ってると車の人は意地悪だなと思うし。

――お互いよく思っていないんですよね。

片山右京氏:

これを免許制にしろとか、罰金とか罰則を強化しろってよく言うんですよ。だけど、67%ぐらいは免許持ってる人が乗ってるんで、免許があればなくなる問題じゃなくて、最近またキックボードとかまだちょっとカオスなところがあるんで。

でも、過渡期にはそういうことが起きるから、これも10年後、20年後、30年後に振り返ったときには是正されてはくるんで、それも含めてみんなで声を荒げて罵り合うんではなくて、譲り合ったり声を掛け合ったり。