“麻薬戦争”とは…3万人が殺害されたとの推計も

南部ミンダナオ島のダバオ市長を経て、2016年に大統領に就任したドゥテルテ氏は、公約である「麻薬犯罪の撲滅」を最優先課題に掲げていた。同年に行った演説では次のように述べている。

フィリピン・ドゥテルテ大統領(当時)
「麻薬戦争は今まさに起きている。私の任期の最後の日まで、密売人が路上からいなくなるまで、麻薬王が殺されるまで…この方針は続くだろう」

(演説するドゥテルテ氏、2016年12月)

強力なリーダーシップで国民から高い支持を集める一方、数百万人の麻薬中毒者を「喜んで殺す」と発言するなど、過激な物言いがたびたび物議を醸した。アメリカ映画の主人公になぞらえ「フィリピンのダーティハリー」と呼ばれたほか、「アジアのトランプ」「暴言王」といった様々な異名をもっていた。

薬物の密売人らを殺害することも事実上容認され、警察官は路上にいた密売人を、十分な証拠も裁判もないままに、その場で射殺するケースが相次いだ。無実の市民が殺害されたとの報告もあった。また、警察だけでなく、自警団を名乗る正体不明の殺し屋集団も殺人に加わっていたとされている。“麻薬戦争”によってフィリピン政府は6000人あまりが死亡したと発表したが、人権団体などは犠牲者が3万人に上るとの推計も出している。 

(射殺された容疑者の葬儀 2017年・マニラ)

ドゥテルテ氏の強引な取り締まりをめぐっては、薬物犯罪が深刻化していたフィリピンの治安改善につながったと評価する声もあがった一方、犠牲者の容疑者の家族らは「超法規的な殺人が人道に対する罪にあたる」として、ICCにドゥテルテ氏を告訴した。ICCが捜査を始めると、ドゥテルテ氏はこれに反発し、2019年にICCから脱退した。