■《元裁判官は、この裁判をどう評価したのか》

今回の裁判員裁判について、福岡家庭裁判所小倉支部で少年審判の経験もある、札幌地裁の元裁判官、内田健太弁護士に解説してもらいます。

札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士

Q.裁判でも重要なポイントとなった、女子高生が橋から転落した場面など、防犯カメラの映像などの決定的な証拠がない中で、2人の被告の話は全く食い違っていました。裁判所はどう判断したと考えますか。

A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「刑事裁判には、『疑わしきは被告人の利益に』という大原則がある中で、積極的に供述を信用したというよりも、信用性を否定するだけの事情がなかった。消極的な意味で、この裁判の中では、当時19歳の被告の供述を前提とするという判断だと思う」

Q.犯行の中での被告人の役割も論点となりました。

【弁護側の主張】「犯行の大半は内田被告の指示。当時19歳の被告は従属的な立場だった」
【検察側の主張】「内田被告に強制されたわけではなく、仲間意識でみずから参加した」

内田梨瑚被告(22)

【旭川地裁の判決】
「当時19歳の被告は一連の犯行に主体的に関与した」
「一部は内田被告の指示で、役割は内田被告に比べ、やや小さい」

この裁判所の判断を、内田弁護士はどうみますか。

A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「供述自体は、当時19歳の被告のものを前提としているが、従属的か、主体的かという評価の問題です。裁判所は、被告の供述を前提としても十分主体的で、減刑するような事情ではないと評価しているのだと思う」

Q.19歳の特定少年だったことは、判決に影響を与えたのでしょうか。

A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「一応、判決要旨を見ると、若年だったことは考慮要素にはあがっているんです。ただ、裁判員も述べていましたが、大きく評価したという形跡は見当たりません」

「犯行内容が少年の未熟さの延長と言える範囲をおよそ超えていて、若いからという理由で正当化できないという判断があったのだと考えています」

「また、23年という量刑について、『これで十分だ』という意見は少ないと思っています。しかし、先例から比べると、重い判決だと言えます。先例から大きく逸脱しすぎると、高等裁判所で裁判官から否定される現実もあり、みなさんの法感情と、制度の限界の間で悩まれた結果だと思われます」

Q.全国的にもまだ少ない『特定少年』の裁判の中で、今回の判例は今後、影響を及ぼすのでしょうか。

A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「その通りです。この種の残虐かつ悪質な事件の場合には、特定少年であっても大人と同等の責任を取るという、一つの例になるかなと思っています」

Q.今後は内田梨瑚被告(22)の裁判が行われます。今回の裁判は、内田梨瑚被告の裁判にどう影響するのでしょうか?

A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「2つ影響があると思っています。1つは、別裁判とはいえ、当時19歳の被告の供述が前提として判断され、2人で殺人を犯したと認定されているわけです。今回の裁判で内田被告は証言していませんが、無罪を争うようになったら、この点はハードルになるだろうと思っています」

「もう1つは『やや小さい』と裁判長が事件の役割を評価した懲役23年という量刑です。内田被告が有罪となった場合、基本的にこれを下回ることはあり得ない」

内田梨瑚被告(22)

 内田梨瑚被告(22)の裁判の日程はまだ決まっていません。

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