「欲しいもの、なんで買ってくれないの?」

小学生になった頃、「うちはおもちゃもお出かけの回数も友達より少ない」と気づいた。

中学生になると、金銭的な格差を感じることが増えた。
吹奏楽部では学校備品の古い楽器を使った。友達はピカピカの自分の楽器で演奏していた。
クラスメイトは原宿へ遊びに行ってタピオカミルクティーを飲み、洋服を買っていた。

周りは自分の楽器を買ってもらえて「羨ましかった」

ある日、友達と「テーマパークに行こう」と盛り上がった。
やりたいことがいっぱい浮かんで、ワクワクした。
お母さんにお願いしてみたけれど、返ってきた言葉は「行かせてあげられない。ごめんね」。

中学1年生の時、一度だけお母さんに怒りをぶつけたことがある。

きっかけがあったわけじゃない。我慢の限界。
言葉があふれた。

お母さんに怒りをぶつけたのは一度だけ

「行きたいところ、なんで行かせてくれないの!?」
「欲しいもの、なんで買ってくれないの!?」
「全部ムリじゃん!」

お母さんは怒ると思っていたけれど、申し訳なさそうに「ごめんね」と言うだけだった。

「しょうがない」を言い続けるうちに…

お母さんはえりさんが大学に行けるよう、お金を積み立てていた。

迷ったことは何度もある。

「今月積み立てなければ、えりを遊びに行かせてあげられる」

でも、“今”より進学が大切だと考えた。

「だけど、ずいぶん悲しい思いをさせました」

えりさんのお母さん

中学1年生のえりさんは「うちは経済的に苦しいんだ。お母さんに迷惑をかけちゃったな」と考えるようになった。

「大人になって自分で稼いでからやればいい。しょうがないんだ」

「しょうがない」はモヤモヤをなくす魔法の言葉。
だけどだんだん、諦めの言葉に変わっていった。

「習字を習いたい。ムリだろうな」
「飛行機に乗ってみたい。ムリだろうな」
「ダンスを習ってみたい。ムリだろうな」

都内のハウススタジオでえりさん(仮名)に話を聞いた