デジタル化するドラマ美術の世界と、仕事を“趣味”と再定義する美術チームの探究心

劇中では、プログラミングが得意で、自身が作った生成AIを使いこなす生徒の部屋も登場する。その空間演出には、内装とディスプレイを一体化させるTOPPAN株式会社の「ダブルビュー」技術を活用。普段はただの黒い壁のように見えるが、電源を入れるとAIの波形が浮かび上がる映像スクリーンとして変化し、まるで部屋全体がAIそのもののように見えるユニークな演出だ。

「異次元の設定を違和感なく見せるためには、シンプルにパソコンの画面だけでAIを表現するのではなく、あえて突飛で想像を超える技術を掛け合わせてインパクトを持たせることで、むしろリアルに感じさせることができるんです」と、二見氏が演出の意図を語る。

時代とともに数々の最新技術が生まれる中で、ドラマ美術の世界でもデジタル化が加速している。その一例として、本作で初めて導入されたCG制作ソフト「アンリアルエンジン」がある。同ソフトは事前にデザインしたセットをCGで再現し、カメラの画角で見える映像を忠実に再現できる優れたツール。

今回はTBS ACTの未来技術推進部とイノベーションスペース「Tech Design X(テックデザインクロス)」の協力のもと、「アンリアルエンジン」で作成したCGイメージを、監督が手軽にコントローラーで操作できる環境を整えたという。

「セットデザインを提案する段階から、監督がゲームのように操作しながら、どこからどう撮ればどんな映像になるのかを確認できる。撮影のイメージをより具体的に膨らませることができます」と、二見氏がその利便性を語った。

「ダブルビュー」技術や「アンリアルエンジン」にとどまらず、二見氏と野中氏は最新のデジタル技術や3D表現に高い関心を持ち、撮影と並行してバーチャルアートの学習なども進めている。二見氏は「将来的にはリアルセットに加えて、バーチャル空間を活用する可能性も出てくると思っていて」と、今後のドラマ美術のデジタル化を見据える。

ドラマ独自の世界観を再現する美術スタッフだが、没入して制作に取り組む一方で、決して内向きにならず、忙しい合間を縫いながら常に新たな技術やアイデアを探し取り入れている。

「美術として作品に採用できるものがないか、普段からアンテナを張っています」と明かす野中氏に続けて、二見氏は「僕たちはこの仕事を“趣味”と再定義してしまったんです(笑)。仕事ではなく、趣味と考えれば、自然とより深く追求したくなる。それが新たなアイデアにつながっています」と、創造力の源泉を明かしてくれた。

セット作りの技術は日々進化している。限られた条件の中で最大限のクオリティーを追求する姿勢や、現状に満足することなく新しい技術を積極的に取り入れ、ドラマ美術の可能性を広げていく美術スタッフの探究心と情熱が、作品のクオリティー向上に大きく貢献しているのだ。