「空間がキャラクターを引き立てる」――セットデザインと色彩演出がもたらす視覚効果

本作では、実際の私立高校でもロケ撮影が行われており、スタジオセットもロケ地とのつながりを意識し、細部まで緻密に作り込まれた。特に野中氏がこだわったのは、画面の端に映り込む「見切れ」の部分だ。例えば、窓の外の手すりにはロケ地で実際に使われているものを一部採用。こうした細やかな工夫が、セットにリアリティをもたらすほか、窓の外には二見氏が日曜劇場『アンチヒーロー』(TBS系/2024年)で初めて導入した、ドイツ製の世界最大の布プリンターで背景が印刷された巨大な布が遠見(窓外の背景)として活用され、屋外の景色にも奥行きを生んでいる。

教室内には、今どきの学校らしい黒板も採り入れられている。プロジェクターで映像を投影する場合、白いスクリーンが必要になるイメージが強いが、本作では直接投影が可能な特殊な黒板を使用。これにより、授業シーンをスムーズに演出できる。さらに、プロジェクターは天井から至近距離で投影されるため、教師や生徒が黒板の前に立っても映像が遮られない設計になっている。
そういった学習環境への工夫もさることながら、ドラマならではのこだわりも欠かさないのが二見氏。「学園ドラマといえば、窓から入る風と、そよぐカーテンですよね」と楽しげに語る。当初使用予定だったカーテンの生地は硬く、風を受けても動きが少なかったため柔らかい素材へと変更したといい、細部まで美術チームの遊び心を感じる。

ちなみに、作中の舞台となる隣徳学院のテーマカラーは赤、対する文部科学省は青に設定されており、野中氏はその設定を巧みに活かす。「文科省から来た御上は、この学校にとってある意味異物。その違和感を際立たせるために、学校のセットには暖色系の木材を使用したり、赤を差し色として使うことで、青みのあるスーツをまとった御上が自然と浮いて見えるような視覚効果を狙っています」と、セットデザインと衣裳の相乗効果の秘密を明かしてくれた。

美術スタッフの細部へのこだわりと遊び心が融合し、学園ドラマならではの空気感と世界観を生み出すセット。そして、この緻密に作り込まれたセットには、巨大な空間の中で効率的な撮影を実現するためのさらなる仕掛けが詰まっていた――。(後編に続く)